最近、日本の投資家から注目が集まりつつある米国ハイ・イールド債券。この魅力について、2015年4月にグローバルに資産運用ビジネスを展開する フィデリティ から出された「米国ハイ・イールド債券ハンドブック」を元に、改めて見つめ直してみたいと思います。

米国経済の成長を支える、厚みのある市場へと拡大

米国ハイ・イールド債券とは、格付け機関による格付けでダブルB以下、つまりS&P社ではBB以下、ムーディーズ社ではBa以下に格付けされた債券を指します。信用格付けが低く、元本割れが発生するリスクが高いため、以前はジャンク・ボンドと呼ばれていたこともあります。

1970年代に米国ハイ・イールド債券市場は作られました。“ジャンク・ボンド・キング”と呼ばれたマイケル・ミルケン氏が、高い成長ポテンシャルを秘めつつも担保がなく、信用力が低いとされた中小企業の発行する債券に分散投資することで、高い収益性が期待できることを発見したことがきっかけでした。1980年代に米国ハイ・イールド債券市場は急成長していきました。

さらに1990年代から2000年代にかけては、成長著しいITやバイオ関連企業の資金調達の場として発展していきます。2008年のリーマン・ショック以降、米国では低金利の環境が継続していますが、企業側の資金調達ニーズと投資家の高利回りでの運用ニーズが合うことでさらに市場は拡大を続けています。現在では、1,000社を超える多種多様な企業がハイ・イールド債券を発行しています。

こうして今では、米国ハイ・イールド債券市場は、長い歴史と多くの発行企業に支えられる「市場の厚み」を持つようになり、米国企業の資金調達に欠かせない、米国経済の成長を支える市場のひとつとなったのです。

魅力1:成長企業の初期段階や名門企業の復活局面への投資機会

特に、成長企業の初期段階や、名門企業の復活局面への投資機会は、米国ハイ・イールド債券市場ならではの魅力といえます。

このような低格付社債の市場が日本では確立されていません。ですから、日本の投資家にとって、米国ハイ・イールド債券市場は大変ユニークで魅力的な投資機会となっているのです。

ハイ・イールド債券で成長したアマゾン・ドット・コム

現在、世界で活躍する米国の有名企業の中には、かつてはハイ・イールド債券を発行し、資金を調達することで成長を遂げてきた企業が多数存在します。

例えば、アマゾン・ドット・コムは、1994年に設立された当時は米国で書籍だけを扱う小規模なネット通販の会社でしたが、今では日本を含め海外10カ国以上にビジネスを展開し、ありとあらゆる品物を取り扱っているネットショッピングの最大手企業です。

注)Bloombergよりフィデリティ投信作成。

業績不振からハイ・イールド債券で復活を遂げたフォード・モーター

大企業として君臨しながらも、経営不振や環境の変化によって格付が下げられたり、デフォルト(債務不履行)に追い込まれ、ハイ・イールド債券の発行企業となる場合があります。こうした企業の中には、経営再建を果たし、復活していく企業が数多く存在します。

例えば、米国自動車メーカーのビッグ3を担う名門企業であるフォード・モーターは、一時業績不振からBB格以下に格下げされましたが、その後復活しています(格付けはS&P長期自貨建発行体格付)。

注)Bloombergよりフィデリティ投信作成。

米国ハイ・イールド債券市場で押さえておきたいキーポイント


Q:1米国でハイ・イールド債券市場が発展した理由は?


A:1資金調達手段として銀行融資が中心の日本などに比べると、米国では社債によるが主流なため、低格付の社債であるハイ・イールド債券の市場規模も拡大したからです。


Q:2米国ハイ・イールド債券を発行する企業はどんなタイプ?


A:2様々な業種の多様な企業が発行しています。

右記には日本でもなじみある企業例を紹介しています。一方、日本で発行・流通されているハイ・イールド債券は極めて限られています。ですから米国ハイ・イールド債券は日本の投資家にも魅力的な投資機会を提供してくれているのです。

Q:3米国ハイ・イールド債券に投資しているのは誰?

A:3金融機関のほかに海外投資家や投資信託を通じた個人など、幅広い層の投資家が社債市場を支えています。

このことは、米国社債市場の流動性や安定性の向上につながっています。また、これらは社債市場を通じて、企業にリスクマネーを供給する役割を果たし、現在の米国企業の強さにつながっていると考えられます。

Q:4米国関連の高利回り資産が色々あるが、投資の際に留意すべきポイントは?

A:4市場規模や銘柄数、値動きの大きさに留意してください。

一般的に市場規模が小さく、投資対象銘柄が少ないほど、市場参加者が少ないといえます。そのような場合、市場が大きく下落すると、市場参加者が少ないため、すぐに売却できなかったり、希望した価格で売却できなかったりするリスク(流動性リスク)に注意する必要があります。米国ハイ・イールド債券市場の市場規模は、拡大傾向にあります。米国に関連する高利回り資産の中で、市場規模は米国ハイ・イールド債券が最大級であり、MLPや米国リートと比較しても、値動きは小さくなっています。

魅力2:高い金利収入

ハイ・イールド債券投資の魅力のひとつに、高い金利収入があげられます。実際、米国ハイ・イールド債券の長期的なリターンを支えているのは金利収入で、米国株式の配当収入に比べて圧倒的な高さを誇っています。

高い金利収入の「クッション」で価格下落のリスク抑制

この圧倒的に高い金利収入があるため、投資する資産の価格変動のリスクを完全に回避することはできませんが、価格の下落をカバーする「クッション」となって、下落幅を抑えてくれます。米国ハイ・イールド債券の場合、中長期に渡って金利収入を積み上げることで、この「クッション」がより効果的に作用し、値下がりに強い資産運用が可能となるのです。

実際の値動きで確認してみましょう

長期の実績を見ると、米国株式の上昇要因は、配当収入と価格変動がほぼ半々です。
一方、米国ハイ・イールド債券の上昇要因は、(下落後の回復局面における大幅な価格の上昇を除くと)金利収入が大部分となっています。

株式は一旦価格が下落すると、再び上昇しなければ取り返せません。ですが、ハイ・イールド債券の金利収入は、長く保有するほど積み上がり、価格が下落したとしても「クッション」の役割を果たしカバーしてくれることが分かります。

魅力3:多少の「失点」でも結果的に「負け試合」にはなりにくい

米国ハイ・イールド債券では、定期的に高利回りの金利収入を獲得できます。相場が下落することはもちろんありますが、金利収入を積み上げていくことで、多少“失点”(価格変動によるマイナス)しても、大きな“点差”の開き(年間騰落率)を抑える効果が期待できます。過去18年間、年次で見ると金利収入よりも価格下落が大きくなった結果、マイナスリターンになったのは3回だけで、金利収入が「クッション」となって“負け試合”を防ぐことができた年が7回もありました。

魅力4:リスクは低め、リターンは高めの米国ハイ・イールド債券

資産運用を行う上で最も注意しなければいけないリスクのひとつが価格変動リスクです。金利収入を積み上げても、それを上回る値下がりがあっては安心して運用できません。リスクとリターンはトレードオフの関係にあるといわれますが、これからは利回りとリスクの関係にも着目し、リスクの大きさを意識しながら金利収入を積み上げていきましょう。

米国ハイ・イールド債券は、米国の他の資産と比較すると、2014年12月末時点で最も高い利回りですが、リスクは米国株式や米国リートに比べて低いという特徴をもっています。極端に大きなリスクをとらず、大きな値下がりの可能性を避けながら、金利収入を積み上げていくことが期待できる資産といえるのです。

魅力5:長い運用期間ほど安定した資産運用が期待

下記の図でも分かるように、1年の騰落率ではマイナスになった期間もありますが、5年、10年と投資期間を長くする程、より安定した投資成果が期待でるのが、米国ハイ・イールド債券の特徴です。

魅力6:意外にも長期金利上昇局面に強い

過去の長期金利上昇局面で、米国ハイ・イールド債券の価格は上昇する傾向

直近3度の長期金利上昇局面をみると、米国ハイ・イールド債券は長期金利上昇に強い資産であることが理解できます。

長期金利が上昇し始めるタイミングは、景気が良くなる局面で起こる傾向にあります。米国ハイ・イールド債券を発行する企業の業績が改善し、信用力が向上することで、米国ハイ・イールド債券は買われやすくなります。

過去の例では、長期金利が上昇(価格は下落)しても、米国ハイ・イールド債券の利回りは低下(価格は上昇)していることが確認できます。

これは、ハイ・イールド債券の利回りが企業の信用力に基づいて決まり、国債との利回り格差であるスプレッド(上乗せ金利)が関係しています。

景気が拡大する局面では、企業の信用力が向上し、スプレッドは縮小する傾向にあります。国債と社債の利回りが異なる傾向にあるのは、このスプレッドが影響しているのです。

過去の実例で確認してみましょう

2012年7月末から2013年12月末にかけて、米国政策金利引き上げ観測によって長期金利(米国10年国債利回り)が上昇した局面では、景気回復を背景に企業業績が上向くという期待から、ハイ・イールド債券は買われ、価格は上昇、スプレッド(上乗せ金利)が縮小し、ハイ・イールド債券の利回りが低下しました。

つまり、ハイ・イールド債券には国債とは異なり、長期金利上昇局面に強いという特徴があります。ただし、スプレッド(上乗せ金利)の縮小が続くと、利回りが低下する余地が少なくなり、価格の上昇余地も少なくなるので要注意です。

原油安は多くの米国ハイ・イールド債券発行企業にプラス

米国ハイ・イールド債券に占めるエネルギー・セクター(業種)の比率は1割程度です。2014年後半から進んだ原油価格の下落は、エネルギー関連企業にとって逆風となりますが、エネルギー・セクターは米国ハイ・イールド債券指数の中の1割程度、とごく一部です。

当該セクター企業の多くは約1年先まで原油価格をヘッジしていることや、天然ガスを中心に手掛ける企業もあることから原油安の影響は市場が懸念しているほど大きくないと思われます。
また、貯蔵・輸送セクター企業の多くは、固定価格の長期契約によってパイプライン等での原油輸送を請け負っており、原油安の影響は相対的に軽微です。

このほかにも、設備・サービス、精製・販売、総合エネルギーなどの業種がありますが、米国ハイ・イールド債券指数に占める割合は合計2%程度と小規模です。

一方、原油・ガソリンの消費者である化学、空運、公益(電力会社など)などの業種は、コスト低下という恩恵を受けています。また、原油安による米国内需拡大期待も背景に、2014年は多くの業種の指数が上昇し、米国ハイ・イールド債券指数全体も上昇しました。

今後原油価格の下落が続いた場合、米国ハイ・イールド債券発行企業の一部にとっては逆風となる一方、幅広い業種にとって追い風となると想定されます。原油安による投資家心理の悪化で相場の変動性が高まった場合は、魅力的な投資機会が生まれると期待されます。