風邪と似た初期症状
主な初期症状は、発熱、せき、息切れなどで、風邪と類似している。すべての症例ではないが、ときに消化器症状を伴うことも知られている。体温が38℃以上あり呼吸器症状が現れた場合、流行地域に渡航や滞在した人ならびにこのような人と接触した人は、直ちに最寄りの病院を受診する必要がある。
特に高齢者や、糖尿病、慢性肺疾患、低免疫機能(抗癌剤使用者など)など基礎疾患のある人は、MERSが重篤化する傾向が知られている。重篤化した場合、肺炎や呼吸不全を起こし、人工呼吸器や集中治療室での管理が必要になる。
報告される2次感染
MERSの感染様式は未だ不明な点が多く、全容が明らかになってはいない。現在明らかになっているのは、中東で多い家畜のヒトコブラクダがMERSコロナウイルスを保有して、人への動物感染源である可能性が報告されていることである。人から人への感染は、患者の咳を浴びるなどの濃厚な接触によって成立することが示唆されており、軽度な接触では感染しないとされている。
これまでMERSの流行は中東地域に限局されており、中東以外の地域でのMERS発症者もそのほとんどが中東で感染したことが判明している。中東以外の地域では、人から人への2次感染がほとんど見られなかった。しかし、今回の韓国では、明らかに人から人への2次感染が拡大している。これまで知られていた感染性を超えたMERSコロナウイルスの出現も否定できず、より一層の警戒が必要である。
診断はウイルス遺伝子が決め手
MERS診断に際しては、前述の疑いのある患者に対して、喀痰などを採取する。その中のMERSコロナウイルスの遺伝子の有無が、診断の決め手となる。
厚労省の指針では、MERS診断のための検査は2回実施される。最初の検査は各都道府県の定められた衛生検査所で行い、そこで陽性となった場合、国立感染症研究所において再検査を行う。再び陽性の場合をMERS患者と確定するのである。
未だない専門的治療
MERSコロナウイルスに対するワクチンや専門的な治療法は未だない。治療は対症療法となる。患者の状態を見ながら、発熱に対して抗炎症剤、脱水に対して輸液、呼吸器症状に対して人工呼吸、2次感染症やその予防のための抗生物質の投与などが行われる。
前述のように、高齢者や基礎疾患を抱える患者の場合は症状が急速に重篤化しやすい。そのため、集中治療室での監視など慎重な対応が必要である。