税収の伸び率が名目GDP成長率の何倍になるのかという弾性値の議論が活発だ。現在の景気回復局面では弾性値(10年ローリング)は3.5倍程度となっているが、数十年のかなり長期的な平均では1倍程度と言われる。

6月中に政府がまとめる財政健全化計画の議論では、この弾性値の前提を控えめな1倍程度とするのか、それより大きい数字とするのか、意見が割れているようだ。

倍数が大きくなれば、名目GDP成長率の伸びに対して税収の見積もり(伸び率)も大きくなり、政府の目標である2020年度のプライマリーバランスの黒字化達成のための歳出削減幅は、小さくてもすむことになる。

この議論で疑問なのは、税収の伸び率と名目GDP成長率というフローの比較だけが行われていることだ。税収と名目GDPの水準比較の議論がほとんど行われておらず、抜け落ちている視点であると言える。


税収と名目GDPの水準比較

バブル期の1990年度の税収(除く消費税)の名目GDPに対する割合は12%程度であった。しかし、その後に急落が続き、デフレに陥った1990年代後半からは、割合は7%程度となっている。現在、税収の弾性値が1倍を大きく上回ってきているため、割合は上昇傾向にある。

日本がデフレを完全に脱却していけば、この割合は1990年度までとは言わないが、今後もしっかりとした上昇が続くはずである。このような税収水準の上方への調整を考えると、税収の弾性値が2020年度という短い期間で1倍程度にとどまるというのは非現実的である。

プライマリーバランスの黒字化より圧倒的に重要である政府・日銀の政策の主目的であるデフレ完全脱却が前提として織り込まれていないというのと同じであろう。

税収と名目GDP(付加価値)の比較で抜け落ちるのは、キャピタルゲインや株主への利益還元の増加や、赤字から黒字に転換し課税ベースに戻る企業の増加などである。株価が上昇しているということは、キャピタルゲインなどは増加し、企業の収益も好調であるので課税ベースに戻る企業も増加しているはずだ。税収の名目GDPに対する割合と、株価には、実際にかなりの強い相関関係があるようだ。

そして、企業活動の強さを表す指標として企業の貯蓄率に特に注目してきた。企業活動の弱さ(マイナスであるべき企業貯蓄率がプラスであり、企業のデレバレッジ・リストラの恒常化)が、内需低迷やデフレの長期化の原因になっていると考えるからだ。

税収の名目GDPに対する割合と、企業貯蓄率にも、実際にかなりの強い相関関係があるようだ。

政府目標であるデフレ完全脱却、即ち企業貯蓄率のマイナス化(デレバレッジの終焉とリレバレッジ)と株価の上昇を前提にするのであれば、税収の名目GDPに対する割合は上昇していくと考えられる。

よって、デフレ完全脱却に向かう景気拡大局面である2020年度までという短い期間の見通しであれば、税収の弾性値は1倍を大きく超えると考えることは自然だろう。

逆に、大きな税収の弾性値を前提にしないということは、プライマリーバランスの黒字化が主目的で、デフレ完全脱却が副次的であり、政策目標として疎かにされているという誤解を、マーケットに与えることになる。


内需拡大が国際社会から歓迎される

振り返れば、なぜ2020年度にプライマリーバランスを黒字化することになったのか、2010年度の計画段階で10年が区切りがよいということ以外、いまだに理由がよくわからない。

低い税収の弾性値の前提で大規模な歳出削減をしてデフレ完全脱却に向かう景気拡大の腰折れのリスクを大きくすることは、政策目標の優先順位を考えれば、逆立ちをしてしまっていることになる。

経常黒字国である日本でプライマリーバランスの黒字化を達成しても内需が強く拡大しないことより、デフレ完全脱却を達成し内需を強く拡大する方が、国際社会からは歓迎されるだろう。

デフレ完全脱却と内需拡大を優先した結果として、実際には税収弾性値が前提より小さくプライマリーバランスの黒字化が遅れても、バランスが改善していさえすれば、ほとんど問題視されることはないだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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