ギリシャは脇役、主役はECB金融政策だが・・・
ギリシャ問題は今年4-6月期に突然焦点を浴びることになったが、数ヶ月から数年間のユーロ相場の基調的な方向性を決めているのはファンダメンタルズを背景とした金融政策動向だ。
但しこれについても明確な方向感が出ないのが実情だ。確かにECBは今年3月に資産購入プログラムを開始し、来年9月まで継続する計画で、四半期ごとのTLTRO(的を絞った長期資金供給オペ、テルトロ)もあわせてバランスシートを拡大中で、資金供給と利回り押し下げ効果はユーロ安要因のはずだ。
もっとも、インフレ率がプラスを回復し景況感も改善傾向が続く中、ユーロ圏国債の利回りは4月に底をつけて以降急反発しており、市場では量的緩和の早期終了期待が高まり易い状況で、むしろユーロ買戻し材料となっている面もある(5月13日付当社投資戦略テーマ「ユーロ:『レジスタンス』運動とスイス衛兵」も参照)。
一方で、ギリシャ危機もあって再び反落しており、例えばドイツ10年債利回りは4月に0.04%の安値をつけてから6月に1.05%へ1%ポイント急反発した後、足許は0.7%割れとなっているなど、金融政策からくる下押し圧力、ファンダメンタルズ改善からくる反発圧力、そしてギリシャ危機からくる下押し圧力が交錯している状況だ。
フローも流出入が交錯、経常収支は脇役
ユーロを巡っては、ECB量的緩和政策への期待と実施を背景とした「ユーロキャリー取引」やそれを反映したIMM投機筋のネットユーロショートの拡大がユーロ安トレンドを助長した後、4月以降にドイツ10年債利回りの上昇と共にこれらの巻き戻しが起こりユーロ押し上げ要因となった。
現状では、ユーロが世界的にみて低金利であることを踏まえればユーロキャリー取引は依然として残っている可能性は高いほか、IMM投機筋のポジションもネットショートの状態が続いているなど(図表5)、市場参加者のユーロ先安感を反映している面がある。
高金利通貨の代表であるトルコリラ、南アランドの対ユーロ(ユーロキャリー取引)、対円(円キャリー取引)相場の動きを昨年初から比較すると、確かに対ユーロ相場の方が対円よりもパフォーマンスが若干いい(図表7、8)。
とはいえ、ギリシャや中国懸念を背景とした市場混乱時の潜在的なユーロショート巻き戻し余地の存在がユーロ買い圧力となっているなど、一方向にはなっていない。
より長期的なフローを示す国際収支関連フローでは、1.ユーロ圏の経常黒字傾向と、2.ECB量的緩和を背景とした世界の投資家によるユーロ圏株式の選好が取りざたされることが多く、いずれもユーロ買い要因に見える。
もっとも、経常収支関連の為替フローは短期的に相場を大きく動かすかたちでは市場に持ち込まれないことが多く、通常は資本収支関連のフロー(対内外株式・債券投資など)のボリュームの方が圧倒的に大きい。
対ユーロ圏株式投資は確かに量的緩和との関連で話題となったが、ユーロ圏の資本収支をみると必ずしも対内株式投資が大幅なプラスとなっているわけではない(図表4)。
あったとしても、ユーロ安と同時進行の株高を追及するものであることから、大部分ユーロ売り為替ヘッジが行われていたとみるべきで、実際のユーロ買いは限定的だったはずだ。
こうしたフローを巡るストーリーはアベノミクス下での円安・株高・経常黒字拡大の進行と非常に類似している。量的緩和からくる通貨安が市場の焦点となる中で経常黒字は通貨高要因とならず、また海外投資家が通貨下落を前提に為替ヘッジを絡めて株式を購入しており、株高でも通貨高とならない訳だ。このため、巻き戻しが起きる場合も為替への影響は限定的となる。