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(写真=PIXTA)

今年5月26日、ASBJ(企業会計基準委員会、Accounting Standards Board of Japan。日本の会計基準設定主体)が「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」と題する公開草案を発表した。

これによると、これまで日本において曖昧にされてきた繰延税金資産の計上基準を5つの区分に分けて設定するとされている。この改正案が実現した場合に、日本の企業の会計に与える影響についてみていきたい。


1.そもそも、繰延税金資産って何?

まず、繰延税金資産について軽くおさらいしよう。繰延税金資産とは、税効果会計という企業会計上の損益と税金計算上の損益の差異を調整するための処理に出てくる資産項目である。

企業会計には二つの役割がある。一つは、株主を主体としたステークホルダー(利害関係者)に対して提示する「企業経営の成績表」、もう一つは、法人税額の計算の基礎という役割である。

これだけを見るならば、特に税効果会計などは必要なさそうだ。しかし実際には、会計上での費用が法人税法上では認められないなどにより、企業会計上の損益と法人税法上の損益に差異が生じる。

それにより、企業会計上の税額は利益に実効税率40%を乗じたものが妥当と考えられているが、実際の税額は企業会計上のそれとは異なってしまう。

そのため、実際の法人税額をそのまま使うと、税引前利益に対して法人税額が多すぎたり少なすぎたりしてしまうのだ。それだけではない。ある期のおおよその税率が80%、また別の期のおおよその税率が20%…と言った具合になり、通年で見比べたときに、税引後当期利益が会計上整合性の取れたものでなくなってしまう。

つまり、税引後当期利益ひとつのために、損益計算書が「企業経営の成績表」としての信用を失ってしまうおそれがあるのだ。