3.合理的な計上理由を説明できれば、繰延税金資産をより計上しやすくなる?
今回の改正案により、繰延税金資産の計上基準は次のように変更される。
1号…業績がすこぶる好調なため、繰延税金資産を全額計上可能→従前通り
2号…1号に準じ、繰延税金資産をほぼ全額計上可能→従前に加え、将来回収可能だと合理的に説明できる部分についても計上可能
3号…「おおむね5年以内」と規定されているが、実際には将来5年分の課税所得見込までのみ計上可能。従前に加え、将来回収可能だと合理的に説明できる部分についても計上可能
4号…例外を除き、実務上は1年分のみ計上可能→従前に加え、将来回収可能だと合理的に説明できる部分についても計上可能
5号…業績がすこぶる悪く、全額非計上→変更なし
つまり、2号~4号について変更がなされる(なお、区分も「1号~5号」から「分類1~分類5」に変更される)。特に注目すべき点は、従前の基準に加えて、「計上について合理的な説明が出来ればOK」とされているところだ。この「合理的な説明」についての考え方は、「IFRSでは認められているのに、日本では認められていない場合」と言われている。
これまで不明瞭だった繰延税金資産の計上基準がより明確化したことにより、企業の経理部の負担は減るだろう。特に、連結決算ではIFRSを任意適用している企業などでは、証券アナリストから「なぜ連単で繰延税金資産の額が違うのですか」などと突っ込まれることは少なくなるかもしれない。また、監査を個人事務所に依頼している企業は、繰延税金資産の計上理由を合理的に説明出来さえすればよいのだから、より繰延税金資産を計上しやすくなり、自己資本比率を高めることができるかもしれない。
この改正案が成立したら、基本的に、2016年4月1日以降に開始する事業年度の期首から全企業に強制適用となる。また、早期適用も可能だ。2016年3月31日以後に終了する事業年度の年度末から適用することもできるので、2016年3月期の第四半期から適用する企業もあるだろう。
繰延税金資産は、企業にとっては直接あるいは間接の資本調達において重要な役割を持つ項目だ。今後のASBJの動向に注目しながら、対策や活用をどうするべきかについて考えておいた方がよいだろう。
鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち、会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら、税理士試験の受験勉強を続け、2009年に合格。2012年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫と共に、外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。また、2014年から、国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。8歳、5歳、2歳の三姉妹の母。
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