電子雑誌
(写真=PIXTA)


紙の1.7%の市場規模

電子雑誌の苦戦が続いている。タブレット型端末の普及などにより、少しずつ市場は拡大しているものの、紙の市場規模に遠く及ばないのが現状だ。

インプレス総合研究所によると、2014年度における電子雑誌の市場規模は145億円。前年比39%増加を達成しているものの、雑誌全体の市場規模が8520億円であることを踏まえると、電子雑誌は市場のわずか1.7%を獲得しているに過ぎない。あらゆる場面での電子化が進み、かつ出版不況が騒がれる昨今において、いまだに市場規模にこれほど差があるのはどうしてだろうか。


見出せない電子雑誌の価値

そもそも雑誌の価値とは何だろうか。読者の視点で考えると、雑誌はプロの編集者が発信する高品質で専門的な情報を入手できることにあった。広告主の観点では、特定の分野に強く興味を持った読者にリーチできることである。

しかしインターネット上では、雑誌と遜色ない良質なコンテンツが数多く無料公開されており、生活者にとって雑誌以外から情報を得る機会は以前よりもはるかに多くなっている。また、訪問者の属性や行動が細かく分析され、広告主はより細かい条件で見込み顧客を見つけることができるようになった。

このような紙とウェブの違いにも関わらず、電子雑誌は紙媒体の慣習から抜け出せていない。ビデオリサーチインタラクティブの調査では、電子雑誌を購読しない理由として、以下の課題が指摘されている。「紙の雑誌で十分」「値段が高い」「利用登録や購入の手続きが面倒」「文字が読みにくそう」「読みたい雑誌がない、ラインナップが少ない」など。

現在の電子雑誌は、紙をPDFなどに電子化したフォーマットに過ぎず、読者に新たな価値を訴求できていない。雑誌ではレイアウトや文字装飾が重要な情報を占めているが、スマートフォンではかえって見づらく、読みやすいサイズのタブレットを持つ人間はまだまだ少数派だ。かつてリッチな表現を試みる電子雑誌もあったが、話題作りに成功したものの、その後に繋がっていない。

加えて、どこの電子書店にどの雑誌があるのかが分かりにくく、読者の興味にあった情報を見つけることができていない。書店ごとに閲覧用のビューワーソフトが異なるなど使い勝手も悪く、結果として読者の購買意欲が高まらず、実売にも広告収益にもつながらない状態に陥っていると見られる。

それでも、このフォーマットで出版社が配信を続けるのは、制作したコンテンツを流用しやすいからだ。入稿済のデータを各電子書店のフォーマットに合わせてアップロードするだけで販売が可能になる。また、肖像権や著作権など複雑に絡み合う雑誌内の諸権利も電子雑誌という形であれば関係者を説得しやすい。

また、ウェブサイト化してコンテンツ配信をするには、多くの関係者の承認と予算が必要で、さらに費用をかけてまでウェブ化に踏み切ることが多くの媒体ではできていないのだ。結果、読者目線を欠いた「業界都合」のフォーマットから抜け出せなくなっている。


盛り上がるキュレーションサイト

現状では、紙の雑誌と競合しているのは、電子雑誌ではなくキュレーションサイトかもしれない。インテリアに特化した「iemo」、女性向けファッション「MERY」などのキュレーションサイトが人気を集めている。

キュレーションサイトは特定のテーマの基に、独自の情報を収集・編集することで、特定の顧客層からの支持を得ている。これは従来、紙の雑誌が担っていた役割と同じである。加えて、キュレーションサイトは、速報性などのWebならではの特性を活用している。

特に、ソーシャルメディアでシェアされるようコンテンツを工夫し、1つの記事が大多数の消費者にアピールするようになっている。キュレーションサイトの取り組みに比べると、電子雑誌は時代遅れと言わざるを得ない。

高品質な情報を多数の顧客に届けるのは難しい課題であるが、そのビジネスモデルを見つけなければ、これから先、電子雑誌が普及するのは困難だろう。今後も電子雑誌市場の拡大は続き、2015年には290億円に到達すると見られているが、依然、紙の市場規模には大きく水を空けられている状況だ。

果たして、これ以上の電子雑誌の進化はあり得るのだろうか。(ZUU online 編集部)

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