高齢化
(写真=PIXTA)

経済財政運営と改革の基本方針2015では、これまでの名目GDP成長率=前提・プライマリーバランス黒字化(財政健全化)=主目標から、名目GDP成長率(デフレ完全脱却・経済再生)=主目標・プライマリーバランス黒字化=副次的目標へ、政策哲学は大きな転換をしたと考えられる。

「名目3%程度を上回る成長(デフレ完全脱却・経済再生)の実現を目指す」ことが政策目標として主目的となり、2020年度までのプライマリーバランスの黒字化は副次的なものとなった。主目標である名目成長率が3%を下回っても、強引な増税と歳出削減策により2020年度のプライマリーバランスを黒字化するというシナリオは否定された。

振り返れば、なぜ2020年度にプライマリーバランスを黒字化することになったのか、2010年度の計画段階で10年が区切りがよかったということ以外、いまだに理由がよくわからず、デフレ完全脱却・経済再生を優先するのは理解できる。

一方、2025年度には団塊世代が医療費が膨らむ75歳に到達するため、それまでにプライマリーバランスを黒字化する必要があるという意見も聞こえるようになった。医療費を含む国の社会保障の支出は国内の所得を生み(すべてが海外で使われない限り)、すべてではないが多くの部分が税収の増加として国に返ってくると考えられる。よって、所得の増加を全く考慮せずに、ミクロの会計のように社会保障の支出の増加に対して同規模の増税や別の歳出削減を前倒しでしてしまうと、緊縮財政として景気に下押し圧力がかかってしまう。


高齢化でも成長できる経済の仕組みが必要

国の社会保障の支出の増加と増税の関係は、社会保障の支出の増加による需要の増加が、マクロの需要超過にどれほどつながるのかという議論が必要になる。支出の増加による需要超過が大きいのであれば、需要超過と過度なインフレを抑え、経済を安定させるために歳出の削減や大きな増税が必要になる。需要超過がそれほどでもなければ、そのような手当ては必要にならず、国の社会保障の支出の増加は経済成長率を押し上げることにもなる。

1兆円の支出の増加に対して1兆円の増税をするという単純すぎる議論より、高齢化でもしっかりとした成長ができる経済の仕組みとイノベーションを生む活力、高い生産性、そしてその成長により税収を増やす形をつくる議論の方が重要だと考えられる。その形がしっかりしていれば、潜在成長率が上昇して需要超過になる水準も上昇するので、増税による国民の負担をより小さくすることができ、国内の所得の増加と社会保障の持続性の両立ができる。

消費税率引き上げを含む増税による国民の負担が社会保障の実際の支出の増加より前倒しで大きくなることは、過度な緊縮財政効果となってしまい、デフレ完全脱却を阻害してしまうリスクとなる。

高齢化でもしっかりとした成長ができる経済の仕組みとイノベーションを生む活力のためには、企業活動を活性化させなければならず、企業心理を改善させるため、デフレ完全脱却を早期に達成する必要がある。所得の増加と社会保障の持続性の両立を中長期的に目指すのであれば、現在は増税ではなく所得の増加と生産性の向上を政策として優先する必要があると考える。

団塊世代の医療費が膨らむ2025年度を恐れるあまり、緊縮財政により景気を低迷させ企業活動を鈍らせてしまうと、その需要をまかなう生産性・供給力の準備ができず、日本経済の持続的成長はより困難になってしまうだろう。

2025年度の問題は需要・所得・財政収支の問題ではなく、供給・生産性の問題であり、十分な供給力を準備するためには、それまでにデフレ完全脱却を達成し、企業活動を活性化する必要がある。経済再生・デフレ完全脱却を主目的とし、副次的である2020年度のプライマリーバランスの黒字化は、成長率が押し上がった結果として実現するという新たな財政健全化計画の方針は正しいと考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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