石井誠二
(写真=ZUU online編集部)

アカディアン・アセット・マネジメント LLCは、全世界で9兆1000億円の運用資産残高(2015年6月末現在)を誇る、世界有数の運用会社である。米ボストンに本拠を置く同社は、10年以上にわたり日本の機関投資家の運用を手掛けてきたが、より幅広いニーズに応えるために、日本での完全子会社であるアカディアン・アセット・マネジメント・ジャパンを設立、今年3月には60余名の機関投資家、証券会社を招いて東京オフィス開設披露を行った。折しもこの半年間で、日本を始めとする世界の株式市場のセンチメントに変化が見られるが、この状況を運用プロフェッショナルは、どのように見ているのだろうか。日本における代表の石井誠二氏に聞いた。


全世界で3万5000銘柄から投資対象を選択

−−貴社が運用する、マネージド・ボラティリティ戦略の投資ユニバースの規模はどれくらいですか?

グローバルベースで3万5000銘柄です。ボトムアップ分析ではアジア、ヨーロッパ、アメリカの株式市場が、それぞれ取引が終了したタイミングで、バリュー、グロース、テクニカル、クオリティの4つのグループで構成されるファクター・モデルを更新しております。さらに、4つの各ファクターは現在約70に細分化されたサブファクター・シグナルから構成されており、この他に、トップ・ダウンのマルチ・ファクター分析も行い、3万5000銘柄のすべての動向をモニタリングしながら、バランス良く多角的な定量分析に取り組んでおります。

−−先ほど具体例として説明頂いたアノマリーも、ファクター・モデルから抽出されるのですね。他にも貴社のビッグデータを駆使して特定の銘柄を抽出されるのでしょうか?

企業年金や公的年金の運用責任者とお会いするなかで、金利上昇をかなり心配されている印象を受けました。弊社ではファクター・モデルによって、銘柄ベースでベータ値の低いのはもちろんのこと、同時に金利感応度が低い投資対象も抽出し、ポートフォリオに、2013年秋から実装しております。シミュレーションでは2013年5月のバーナンキショック時にも金利感応度の低い銘柄を組み入れたポートフォリオがリスク抑制効果を示しております。とにかく、金利動向は株価にとって重要な要素の一つですので、感応度の低い銘柄を組み込んだリスク・コントロールは欠かせません。


日本株市場の重要性に変わりない

−−ところで、貴社が東京オフィス開設披露時の半年前に比べると、株式市場のセンチメントもずいぶん変化したように感じます。この夏場からの不安定な株価は、貴社にとって想定の範囲内ですか?それとも想定外の事態でしたか?また、ポートフォリオのリバランスの頻度についてもお聞かせください。

10数%程度の変動はいつでも起こりうると考えておりますので、今回も今のところは、予想の範囲内ですね。弊社にとって想定を超えた事態というのは、たとえば自然災害や地域紛争、或いは企業のスキャンダルなどが発生した場合を指します。そうした局面では、ルールに従って例えば特定の銘柄を一時的に外すこともあります。相場というものは、たとえ平時でも値が荒れることが多々ありますが、弊社ではそれで運用方針を大きく変えるということはありません。ポートフォリオのリバランスは戦略によって異なりますが、短い期間で8営業日、また別の戦略では月次ベースで実施しております。

−−ちなみに、半年前に貴社が東京オフィス開設披露されたとき、米本社CEOのチャーチル・フランクリン氏が、①日本株市場は、銘柄数が多く厚みもあり、銘柄選択において重要な市場、②そのなかでも中小型株のセクターに多くの投資機会がある、との見解を示されておりました。貴社としては、現在もその見解に変わりありませんか?

変わりありません。あえて付け加えるならば、上場企業がROE(株主資本利益率)やコーポレート・ガバナンス(企業統治)に見られる、株主重視の取り組みに進展が認められ、市場も一定評価をしている様に見受けられますが、基本的なスタンスは何ら変わりありません。弊社の運用戦略上、日本株市場は引き続き、重要な市場の一つであることを明言しておきます。

−−今回は、大変興味深いお話を聞かせて頂きました。言うまでもなく、年金基金は、私たち日本国民にとって、かけがえのない資産の一つです。貴社の取り組みが、日本の機関投資家、ひいては多くの国民にベネフィットをもたらしてくれることを願ってやみません。本日は、有り難うございました。 (ZUU online 編集部)

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