米国の金融緩和局面で拡大した新興国のレバレッジ

名目GDPで見た米国の地位は低下したとは言え、国際通貨としてのドルの地位は圧倒的で(注1)、FRBの異例の金融緩和は新興国に広く影響を及ぼした。新興国の企業債務は2004年の4兆ドルから14年には18兆ドル超まで増えている(図表3)。

国際通貨基金(IMF)は、9月に公表した「世界金融安定性報告」で、FRBの緩和策は、①対ドルでの通貨高圧力を緩和するための低金利政策の採用、②より高い利回りを求めた米国から新興国への資本の流入、③変動金利のドル建て債務の利払い負担の軽減などのルートを通じて新興国に波及、企業のレバレッジが拡大したと指摘している。

基軸通貨国である米国の利上げは、これまでも新興国に流入していた資金の流出のきっかけとなり、通貨危機や財政危機の引き金となってきた(図表5)。

IMFは、新興国企業のレバレッジの拡大は、景気循環に感応度が高いセクターでより大きく、外貨建て債務が占める割合も高いと指摘。その上で、FRBの利上げをきっかけに、新興国企業の債務不履行が広がり、銀行の不良債権が増加、貸し渋りによって景気が悪化する悪循環に陥るリスクに警鐘を鳴らす。

米利上げ、中国減速リスクとユーロ圏経済 図3-6


中国減速の対外的な影響はGDP統計で捉えられる以上に大きい

新興国は、米国の利上げによる資金調達の環境の悪化と同時に、中国の景気減速による輸出環境の悪化にも見舞われている(図表6)。

中国の景気減速は、実質GDPで見る限りは緩やかだ。14年年間の前年比7.3%に対して、15年1~3月期、4~6月期が、前年同期比7%で、今月19日公表の7~9月期のGDPも「急失速」という内容にはならない見通しだ。

他方、中国の輸入の減速は、GDP統計の鈍化幅よりも遥かに大きい。今月13日に公表された中国の9月の貿易統計によれば、1~9月期の累計で、輸入(ドル・ベース)は前年同期比15.3%減と、落ち込み幅は輸出の同1.9%減を上回った。通年の輸入の減少率は、リーマン・ショックを機に世界同時不況に陥った2009年を上回る可能性もある(図表5)。

輸入金額減少の要因の1つは、原油・資源価格の下落にあるが、素材、機械、部品などの工業製品の輸入数量も減少しており、輸出の不振と国内の生産活動の鈍化も響いている。15年1~9月期の中国の輸入金額の減少率は、相手国・地域別には、南アフリカ、オーストラリア、ロシア、ブラジルなどの資源国が軒並み20%~30%台と大きいが(図表6)、非資源国からの輸入もほぼ例外なく減っている。

先進国・地域では、EUが前年同期比13.6%と減少率が大きく、日本は同12.4%、米国は同7.5%で比較的小さい。アジア域内からの輸入も、韓国が同9.7%減、台湾が同6.3%減、東南アジア諸国連合(ASEAN)が同9.7%減である。ASEANでは、資源等のウェイトが高いインドネシアが同23.0%と減少率が他国よりも大きい。ベトナムだけが、同20.6%増と、中国の主要輸入相手国で例外的に増えている。