中国依存度、資源依存度、借金依存度の高い国に強まる下押し圧力

中国の成長鈍化の影響は、中国向けの輸出が当該国・地域の経済に占める重みによって変わる。

1ページ下の図表は、バブルの大きさで、2014年時点での中国向けの輸出が各国・地域の名目GDPに占める大きさを示した。中国が輸出の3割強を占めるオーストラリアや、全体の4分の1を占める韓国、マレーシア、チリのほか、タイ、マレーシアも、輸出に占める中国のシェアは1割程度ながら、輸出依存度自体が高いために、中国の景気減速の影響を相対的に受けやすい。

中国は、日本にとって米国と並ぶ最大の輸出相手国であり、EUにとっても米国に次ぐ第2位、米国にとってはカナダ、メキシコに次ぐ第3位の輸出相手国だ。しかし、経済規模との対比で見れば、中国への依存度は抑えられている。

1ページ下の図表は、バブルの位置にも意味がある。縦軸は2010~14年の平均の経常収支、横軸には2014年の農産物・石油・鉱物貿易収支を対名目GDP比で示した。足もとの世界経済の不安は、中国経済の減速がFRBの利上げと同時進行することにある。縦軸の経常収支は、FRBが異例の金融緩和を継続していた期間の対外的な不均衡の指標である。

経常収支がマイナス、つまり赤字が大きければ(図表上は基軸から下方に乖離幅が大きいほど)、国外からの資本流入に依存した成長が続いていたことになる。FRBの利上げによって生じ得る米国への資本の回帰やドル高、金利の上昇などの影響を受けやすい。

横軸に示した農産物・石油・鉱物貿易収支は、資源等の価格変動の影響の方向性とその程度の指標である。ロシア、チリ、ブラジルなど収支が黒字の国は、資源等の純輸出国であり、価格下落で負の影響を受ける。タイ、フィリピン、インド、トルコなど、収支が赤字の純輸入国は、逆に価格等の下落が恩恵となる。

(図表7)は、13年5月にFRBのバーナンキ議長(当時)が量的緩和の縮小(テーパリング)の方針を表明し、異例の金融緩和の出口を探り始めてからの主な新興国通貨の対ドル相場の動きを指数化して示したものだ。

13年5月のいわゆるバーナンキ・ショック時は、経常赤字、高インフレ、政治リスクを理由に、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカが「脆弱な(フラジャイル)5通貨」として資本流出による減価圧力にさらされた。これに対して、足もとでは、中国、資源、資本流入への依存度などの弱さがあり、かつ、政治リスクが懸念される国の減価幅が大きい。

マレーシア・リンギットの減価が目立ち、他方、「フラジャイル5」のインド・ルピーは比較的落ち着いている。経常収支は依然として赤字だが、資源価格の下落からは恩恵を受け、中国依存度が高くはないことが理由と思われる。トルコもインドと立ち位置は同じだが、経常赤字がより大きく、政治情勢の不透明感が増していることで減価幅が大きい。

新興国通貨は、ここ2週間余り反転しているが、米国で10月2日公表の9月の雇用統計以降、FRBの利上げ時期が遅れるとの観測が強まっているからだ。利上げ時期に関する期待が変われば、再び減価圧力が強まるおそれがある。対ドル相場の大幅な下落は、ドル建て債務の返済負担の増大をもたらすものであり、IMFが懸念する悪循環の現実味が増す。

米利上げ、中国減速リスクとユーロ圏経済 図7-8

もう1つの不安の源泉である中国経済は、失速は回避すると見られるが、輸入数量の力強い反転は期待できない。資本規制が残る中国は、グローバルな金融環境変化の影響を、直接的に受ける度合いが小さく、金融・財政政策の両面で政策対応の余力を残す。しかし、「新常態」を目指す方針を明確にしているため、リーマン・ショック時の4兆元の景気対策のような大規模な景気対策で成長を押し上げに動くようなこともないだろう。

世界経済の安定にはFRBの対応や中国の政策当局の舵取りも重要だ。同時に、米国の異例の金融緩和の恩恵を受けてきた国々は金融環境の変化に、中国市場、資源依存を高めていた場合は、中国の「新常態」や需要構造の変化に適合すべく、改革などに取り組む必要がある。