経済情勢は良好とは言えず。金融緩和の継続も構造改革も成長指向の財政政策も必要
ユーロ圏では、これまでのところ世界経済変調による大きな影響は見られていないし、金融政策の方向や経済圏・通貨圏の違いを考えると、これから先も相対的には影響を受け難いだろう。しかし、ユーロ圏の経済は磐石という訳ではない。世界金融危機で拡大したGDPギャップは、現時点でも2.5%程度あると推計され、潜在成長率も1%を割り込んだままだ。GDPギャップの解消と潜在成長率の回復につながる投資は、世界金融危機前のピークを15%下回る水準で底這ったままだ。
外部環境の不透明化で下振れリスクが増大している。その1つがユーロ相場の動きだ。ユーロ安は、ECBの量的緩和の効果の1つであったが、FRBの利上げ先送り観測が勢いを増すに連れて、ユーロ高方向に振れはじめている(図表11)。ECBが10月9日に公開した9月3日の政策理事会の議事要旨を見ると、中国経済の減速、資源価格の下落とともに、ユーロ高圧力の強まりを、懸念材料の1つとして協議していたことがわかった。
ECBは、いずれかのタイミングで、今年3月に開始した国債等を月600億ユーロ買い入れる資産買入れ策を16年9月以降も継続することを明言する期限延長による金融緩和の強化に動くだろう。GDPギャップの解消にはまだ時間を要すると見られるし、投資の回復も確認できない。
9月のインフレ率はCPI総合が前年同月比0.1%のマイナスに転じ、エネルギーと食品を除くコアCPIも同0.9%であり、「2%以下でその近辺」という中期物価目標の達成が見通せる状況とは言えないからだ。ユーロ圏が自律的で持続的な成長軌道に乗るためには、金融緩和だけではなく、構造改革、成長指向の財政政策の強化も必要だ。
(注1)英エコノミスト誌が15年10月3日号の特集"Dominant and dangerous"で相対的な経済力が低下した米国のドルが国際通貨として支配的地位を占めていることによる不安定さについて論じている。
伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
上席研究員
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