米利上げ、中国経済減速リスクと欧州-これまでのところ大きな影響は見られず

ユーロ圏の経済は、これまでのところ、中国経済の減速と米国の利上げへの懸念からくる世界経済の変調から大きな影響を受けていない。実質GDPと連動性が高い総合PMI(購買担当者指数)は、一進一退ながら50を大きく超える水準を保っており、欧州委員会景況感指数も長期平均の100を上回る水準で改善している(図表9)。

7~9月期の実質GDPの公表は11月13日だが、前期比0.4%となった4~6月期並みの緩やかな拡大が続いたと思われる。IMFも、10月6日公表の「世界経済見通し」で世界経済の見通しを引き下げたが、ユーロ圏は15年1.5%、16年1.6%と、15年の見通しは据え置き、16年も7月時点から0.1%ポイントの引き下げ幅に留めた。

外部環境の悪化にも関わらず、ユーロ圏で緩やかな景気拡大が続いている要因の1つは、米英が利上げを視野に入れつつあるのに対して、欧州中央銀行(ECB)は、日銀とともに国債等の資産買入れによる量的緩和を拡大していることがある(図表9)。

原油など資源価格の下落も、マクロ的に見れば、輸入に依存するユーロ圏にとってプラスとなる。加えて、欧州が、ユーロ圏を中心に、結びつきの度合いは様々にせよ、巨大な単一市場を形成していることも、影響を受け難い理由だろう。

中国市場への依存度は、米国に比べれば高い。しかし、輸出相手地域に占める米国と欧州域内のウェイトが高く、中国減速の影響を受けやすいその他アジアや資源国のウェイトが低い。中国の影響を受けやすいアジア諸国向け輸出のウェイトが高い日本とは対象的だ。

米利上げ、中国減速リスクとユーロ圏経済 図9-12

新興国の債務問題に関わるリスクも、全体で見れば大きな影響を及ぼすことはないと考えられる。欧州の銀行は、世界金融危機以降、域内の過剰債務問題への対応が必要となり、新興国への与信も抑制せざるを得なかった(図表11)。

さらに、欧州の銀行の場合、新興国向けの与信残高でもおよそ3割が、相対的に中国経済減速の影響を受け難く、資源価格下落の恩恵を受ける中東欧などの欧州域内が占める。中東欧では、2000年代後半に多くの新興国で見られたレバレッジの拡大は生じなかった(図表3)。