まとめ
本レポートでは、不正会計検出モデルの示唆から、企業の営業活動と投資活動に関する財務項目の変化を表すAccruals Ratioに着目することで、企業による利益調整と企業倒産との関係について分析を行った。その中で、倒産企業においてAccruals Ratioの絶対値が大きな数値をとり、かつ正の数または負の数の状態が継続的に続く傾向があったことを紹介した。
この結果は、「粉飾」とまでは言えない「過度な利益調整」であったとしても、企業倒産の可能性を押し上げることを示唆している。よって、このような状況に遭遇した債権者や投資家は、企業のIR等に確認してその原因を明らかにした方が良いであろう。
さらに、信用リスクモデルの観点から、Accruals Ratioを用いた分析が有効だと考えられることを紹介した。過去5年間のAccruals Ratioの加重和で表現されるAR Scoreを用いることで、AltmanのZ Scoreモデルでは捕捉できない信用リスクについて補完できる可能性を示した。
従来から分析対象となることの多い「営業利益」「売上高」「運転資本」等の財務指標に関して、信用リスクを把握するための数値そのものが企業によって調整されている場合には、通常の財務分析のみによる信用リスク分析では正しくそのリスクを捕捉できない怖れがあることを指摘した。
特に2005年以前の倒産企業と2006年以降の企業倒産を比較すると、「売上高」や「営業利益」の項目に特徴的な変化が見られる企業が増えていることを示した。
このことは、2006年以降の一部の倒産企業において倒産直前までAccruals Ratioが大きな数字になる傾向があることと平仄が合うものであり、本レポートで提示した方法は従来の信用リスクモデルでは説明することが難しい信用力悪化の要因について補完する役割として有用ではないかと思われる。
最後に、本レポートで採用した方法を金融機関に適用するにはさらなる分析が必要となると思われる。一般的に金融機関においては、金融取引による利益調整が用いられることから、現金を含めた財務活動についても考慮が必要となるためである。この点については、今後の課題としたい。
【参考文献】
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Paper Series, 2014 年 8 月
木島正明, 小守林克哉 (1999), 「信用リスク評価の数理モデル」, 朝倉書店
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