臨時財政対策債の発行動向

◆地方財政計画における地方交付税と臨時財政対策債

冒頭で述べたとおり、地方交付税の総額と臨時財政対策債の発行可能総額は、地方財政計画において決定される。この地方財政計画は、国が翌年度の地方財政全体の歳入と歳出の積算を行って、地方公共団体における財政運営の指針として示すものである。

当然、歳出総額には国の期待する地方行財政サービスの水準が反映される。同時に、歳出総額と歳入総額は一致するように算定されるから、国の期待する歳出水準を実現するのに必要な財源は、その歳入総額の中で保障されていることになる。

そして、「措置を講じなければ生じた地方財政計画上の潜在的不足額」、いわゆる「マクロの財源不足額」を解消させる特別な措置、すなわち「地方財政対策」を経て、地方交付税と臨時財政対策債(発行可能額)の総額が決定されている。

このような潜在的な不足額は、地方税だけでなく、地方交付税の財源として法定された国税の収入が十分ではないからこそ生ずるのであり、それを顕在化させないように「地方財政対策」の中で地方交付税の加算措置を講ずることは、赤字国債を増発することで地方交付税の一部を賄うことを意味する。

潜在的な不足額を賄う費用は国だけでなく、地方も負担しており、それが地方公共団体によって発行される臨時財政対策債である。

臨時財政対策債が創設される前は、「交付税及び譲与税配布金特別会計(以後、「交付税特会」と略記)」による借入れがその役割を担っていた。しかし、交付税特会による借入れは、究極的には、未来の地方交付税総額からの前借りのようなもので、個別地方公共団体にとっては債務として認識し難く、返済のために財政収支の黒字を増やすというようなインセンティブは働きにくいことが指摘されていた。

そうした交付税特会借入れに代わる存在として登場したのが臨時財政対策債であり、交付税特会の新規借入れは徐々に縮小され、2007年度には新規借入れが完全停止された。つまり、潜在的な不足額に対して地方が負担する財源は、2007年度以降は大部分が臨時財政対策債となったのである。

臨時財政対策債 図1

このような背景を踏まえて、地方財政計画における地方交付税と臨時財政対策債(発行可能額)の推移を2000年度以降についてみたのが、図表-1である。両者ともに年度ごとに変動するものの、地方交付税と比べると、臨時財政対策債の変動は大きい。また、地方交付税に対する臨時財政対策債(発行可能額)の割合は変動を伴いながらも、趨勢的な上昇傾向を示している。

こうした関係が見られることには、明確な理由がある。まず、次頁の図表-2に示すとおり、「地方財政対策」の対象となる「マクロの財源不足額」が景気変動と密に連動していて、その大部分を加算措置に基づく地方交付税の増額と臨時財政対策債で賄っていることに起因している。このうち、地方交付税の加算措置は国の一般会計における負担分(*1)、臨時財政対策債は地方による負担分である。

臨時財政対策債 図2

景気が良いときには、地方税も、地方交付税に対する財源となる国税も増加するから、「マクロの財源不足額」は縮小する。一方、景気が悪いときは、地方税も国税も減少するから、「マクロの財源不足額」は拡大する。こうした「マクロの財源不足額」の変動が、その解消策である地方交付税の加算措置と臨時財政対策債に反映される。つまり、地方交付税における加算措置分も、景気が良いときには縮小し、景気が悪いときには拡大する。

しかし、地方交付税のうち加算措置分以外の部分、すなわち、国税の一定割合を財源とする「地方交付税の法定率分」(*2)は景気が良いときには増加し、景気が悪いときには減少する。そのため、両者を合わせた地方交付税の総額は、結果的に変動が目立ちにくくなる。これに対して、臨時財政対策債(発行可能額)には、景気が良いときには減少し、景気が悪いときには増加する関係が顕著に反映されやすい。

臨時財政対策債 図3

もう1つ重要なことは、過去に割当がなされた臨時財政対策債の元利償還金の財源として新規の臨時財政対策債(発行可能額)が割当てられる方式が採用されていることである。まず、過去の臨時財政対策債(発行可能額)に由来する当年度の元利償還金(*3)の全額が、新たな発行可能額に計上される。

そして、「マクロの財源不足額」から、当該額のほか、過去の地方財政対策に起因して後年度に交付税加算することが定められている額(法定加算)、リーマン・ショック後の対応として地方の借金を抑制する観点から特別に交付税に加算される額(別枠加算)などが控除された残余が、「国と地方が折半すべき財源不足額」となる。この1/2の金額も新たな発行可能額に計上される。つまり、2種類の臨時財政対策債(発行可能額)の合計額として、その総額が決まる。

折半額に対応する臨時財政対策債(発行可能額)は、景気とともに循環的に変動する部分が大きいが、自らの元利償還金に対応する臨時財政対策債(発行可能額)は発行残高の増大に伴って増加していく。しかも、2001年度以降の平均的な「マクロの財源不足額」はバブル崩壊後の1990年代と比べても大きく、臨時財政対策債(発行可能額)の総額は短期間に増大することとなった。

このうち、元利償還金に対応する臨時財政対策債発行可能額は、前頁の図表-3に示すとおり、2013年度以降、発行可能総額の過半を占めるまでに至っている。

過去に割当がなされた臨時財政対策債の元利償還金に対して、地方交付税の増額など現金の形での財源が国から交付されるルールが採用されない限り、臨時財政対策債残高の増大に伴って、元利償還金への対応で割当てられる発行可能額は不可避的に増えていく。したがって、今後も、臨時財政対策債の発行可能総額は、循環的に変動しつつ、趨勢的に増大していくものと考えられる。