臨時財政対策債の償還と残高の推移

◆臨時財政対策債の元利償還金に対する交付税措置の真実

臨時財政対策債が地方交付税の「分割・後払い」に相当する財源としてみなされる理由は、第1に地方財政計画策定時の「地方財政対策」を通じて、マクロの地方交付税とマクロの臨時財政対策債が一体のものとして決定されること、第2に、臨時財政対策債の発行によって調達した資金の使途には制限が課せられないこと、第3に、後年度の地方交付税算定過程において、臨時財政対策債の元利償還費の100%が実質的に国から補填されること、いわゆる「元利償還金に対する交付税措置の割合が100%であること」の3点に尽きるであろう。

特に、臨時財政対策債も起債した地方公共団体の明確な債務でありながら、これを地方債の総残高から控除した金額のみを実質的な債務としてみなす立場は、第3の点を拠り所とするものであろう。しかし、「元利償還金に対する交付税措置」については、注意すべき点が多々ある。

第1に、この措置額は実際の臨時財政対策債の起債額ではなく、発行可能額に基づいて算定されるため、発行可能額を上限としてどれだけ起債するのかという選択は、措置額には全く影響を与えないことである。つまり、「交付税措置」を受けるために起債する必要はないということである。

第2に、「交付税措置」といっても、発行可能額から交付税額が直接算定されるわけではないことである。ミクロの地方交付税は、「基準財政需要額-基準財政収入額」という算式で計算されるが、この基準財政需要額に臨時財政対策債の元利償還費を算入する方式を採っている。

したがって、交付団体にとっては、この算入額の分だけ地方交付税が増額される効果があるが、基準財政需要額と基準財政収入額の差額が負である不交付団体においては、元利償還費算入によって差額のマイナス幅が拡大するだけであり、国から財源が補填される効果は実質的には生じない。

また、前節で述べたように、個別地方公共団体に対しては、マクロの臨時財政対策債発行可能額が按分されてミクロの臨時財政対策債発行可能額として割当てられており、ミクロの地方交付税算定の前段階で、基準財政需要額から予めミクロの臨時財政対策債発行可能額が控除されている。

しかも、マクロの発行可能額には、すべての地方公共団体の臨時財政対策債の元利償還金相当額が反映されている。そのため、ミクロの地方交付税が増額される効果とミクロの臨時財政対策債発行可能額が増額される効果が合成されて一体のものとなったのが、この「交付税措置」であり、2つの効果をミクロレベルで分解することはできない。

第3に、この交付税措置がきわめて長い期間にわたって実施されることである。ある年度に割当てられた臨時財政対策債発行可能額の元利償還費は、翌年度以降の15年、20年、ないしは30年をかけて、全額が初めて回収できるというものである。

そして、実質的な財源補填効果があるか否かは、発行可能額が割当られた年度において交付団体であったか否かではなく、後年度の措置時点において、交付団体であるか否かに依存する。このため、年度によっては交付団体にも不交付団体にもなる可能性がある地方公共団体にとっては、実質的な財源補填効果があるか否かは事後的にしかわからない。

第4に、国から補填される元利償還費、すなわち、基準財政需要額への算入額は、現実の償還実績額ではなく、国が想定した標準的な償還方式・償還年数の下での理論償還費として算定されることである。

通常は、据置期間3年の実質17年間、もしくは実質27年間の元金均等償還方式が想定されている。そのため、現実の償還期間よりも措置期間の方が短いケースや満期一括償還方式で起債したケースなど、措置額が現実の償還額(満期一括償還方式に対する減債基金への積立額を含む(*5)。

以後、同じ)を上回る年度が多々生ずる可能性がある。この差額を将来の償還に備えて積み立てずに、他の歳出に充ててしまえば、国からの措置期間が終わった後は、自主財源での償還を行う必要が生ずる。このように、臨時財政対策債は、地方交付税とは著しく異なる特質を備えている。臨時財政対策債が地方交付税と同等と言えるのは、恒常的な交付団体に対する国からの財源補填効果を、長期で見た場面に限られる。