◆臨時財政対策債残高の動向

臨時財政対策債の残高は、新規の起債額と前節で検討した現実の元利償還額のうちの元金部分との差額分だけ、毎年度増えていく。

臨時財政対策債 図7

図表-7に示すとおり、都道府県と市町村における臨時財政対策債の残高は、依然増大を続け、両者を合わせた総額は2014年度末に48兆円に達している。しかし、より重要なのは、他の地方債と合算した全地方債の総残高が安定傾向にあり、2014年度は前年度から微減して145兆円にとどまったことである。

臨時財政対策債以外の地方債にも元利償還金に対する交付税措置があり、措置額と比べた現実の償還額を臨時財政対策債において改善させるかわりに、他の地方債においては悪化させている地方公共団体が一部で見られる。それでも、地方債全体としては償還が着実に進み、全地方債残高の水準が抑制されている。

臨時財政対策債は特殊な地方債ではあるが、地方債であることには変わりなく、臨時財政対策債を含むすべての地方債について動向を見守ることが最も重要なことであろう。


おわりに

当レポートでは、広義の地方交付税とみなせる部分が強調されて、他の地方債とは別扱いされることも多い臨時財政対策債について、元来の地方債として側面に注意を払って、発行と償還の動向を見てきた。

元利償還金に対する交付税措置と現実の償還額の関係については、2001年度以降の累積額で見た場合に、前者が後者を上回るという「償還不足」の度合いが縮小するなど46道府県全体では2010年度以降に改善が進んでいる。他方、この不足が拡大を続けている団体もあり、2極化が示唆される。

また、発行額に関する地方公共団体の選択は、国から付与される発行可能額を上限として起債額を決めることのみであり、マクロの発行可能総額がどのように決まるかに依存する部分が大きい。地方交付税のための法定財源としての国税が十分にはない中で地方財政計画上の財源不足を顕在化させないための手段が臨時財政対策債であり、その発行可能額は景気変動に伴って拡大と縮小を繰り返す。

問題は、過去の臨時財政対策債の元利償還費のために新規の臨時財政対策債が割当てられる仕組みが採用され続けていることであり、この仕組みが改められない限り、臨時財政対策債は今後も趨勢的に増加していく。

今後も地方財政計画の規模が変わらなければ、全額が措置される臨時財政対策債の元利償還費が増える一方で、それ以外の歳出に対する交付税措置額が減る可能性が高い。増大が続く臨時財政対策債残高を前にしたとき、憂慮すべきは、償還の問題より、この点かもしれない。

(*1)地方交付税に対する各種の加算措置は、「折半前財源不足額」に対応する「法定加算」と「別枠加算」、「折半対象財源不足額」に対応する「臨時財政対策加算」に分類される。
(*2)地方交付税法の改正によって、2015年度以降は、「所得税および法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の22.3%と地方法人税の全額」が「法定率分」と定められている。
(*3)後述のとおり、元利償還金実額ではなく、国が想定した標準的な償還方式と償還年数に基づく理論償還費を指す。また、政令市を除く一般市町村においては、臨時財政対策債を含めた地方債の償還方式は、通常、満期一括償還方式ではなく、元金均等返済による定時償還方式が設定される。据置期間がなければ、起債後の半年後から元金償還が始まる。
(*4)地方公共団体は、独自にこれらの見通しを立てたうえで策定した予算を議会で議決し、新年度入り後に国から通知された額と見通し値との乖離の状況に応じて、補正予算での対応を行うものとみられる。
(*5)満期一括償還方式地方債の償還元金を減債基金へ積み立てた場合、決算統計上は償還として扱われ、公表ベースの積立金には全く反映されないかわりに、その分だけ地方債残高が減額される。また、現実の減債基金における満期一括償還方式地方債分の積立金データは一般公表されていない。
(*6)2-2節で述べたとおり、市町村については、交付団体であっても、臨時財政対策債を発行可能額の上限まで起債しないケースがあり、これも「差額」を拡大する要因となる。堅実な償還が「不足を生じさせない」行為であるとしたら、必要償還額を減少させる起債抑制は「資金剰余を生み出す」行為であり、拡大した「差額」には、見掛け上の数字とは反対に「改善を超えた改善」が一部含まれていることになる。

石川達哉
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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