◆臨時財政対策債の現実の償還額と交付税措置額との関係

臨時財政対策債の元利償還費に対する後年度の交付税措置が国が想定した標準的な償還方式・償還年数に基づく理論償還費方式で行われる以上、現実の償還額との間で著しい乖離が生じていないかどうかは、財政状況を正しく認識するためにも、必ず問われるべきものである。

実は、個別市町村に関しては、地方債種類毎の元利償還実績、地方債残高や元利償還費に対する交付税措置額のデータは全く公表されていない。それでも、市町村全体の集計値、都道府県全体の集計値として、詳細なデータが部分的に公表されており、おおまかな傾向は把握できるはずである。

臨時財政対策債 図5

図表-5は、臨時財政対策債の現実の償還額と交付税措置額について、各年度末で2001年度以降の累積額を計算し、その差額の推移を見たものである。交付税措置額には、交付団体と不交付団体、起債団体と起債しなかった団体を問わず、全ての地方公共団体の金額が集計されているのに対して、現実の償還額は、起債してその後に償還を行った地方公共団体の金額だけが反映されている。

現在の東京都には発行可能額は全く付与されておらず、また、割当があった時期においても起債は全く行っていないが、過去に割当てられた発行可能額に基づいて理論償還費が現在も算定されているため、交付税措置額を都道府県全体の集計値から控除したのが、46道府県ベースの値である。

これを見ると、2003年度までは、市町村、47都道府県、46道府県のいずれにおいても、「現実の償還累計額から交付税措置累計額を引いた差額」は正の値を示している。

その理由としては、次のように考えられる。第1に、交付税措置が始まったのが2002年度以降であるためである。第2に、理論償還費算定に際しての標準的な償還年数として3年間の据置期間が想定されているため、当初は利払い費しか措置されなかったのに対して、実際には据置期間なしの償還方式を選択した地方公共団体があったとみられることである。

しかし、その「差額」は徐々に負の値に転じ、2007年度以降は、市町村、47都道府県、46道府県のいずれにおいても、現実の償還累計額が交付税措置累計額を下回る状況が続いている。この結果は、理論償還費算定に際して想定された償還年数よりも長い償還年数での起債を行った団体や、満期一括償還方式で起債した後、減債基金への積立を十分に行わなかった団体が存在することを示している。

注目されるのは、46道府県ベースで、「差額」のマイナス幅が2009年度をピークに縮小に向かっていることである。47都道府県ベースとの違いは、起債をしなかった東京都の分も集計対象に含めるか否かであり、含めた場合には、差額のマイナス幅が実勢よりも大きめに計算される。つまり、実勢を示すと考えられる46道府県ベースにおいて、着実な改善が進んでいることになる。

こうした結果をもたらすには、理論償還費算定における償還年数よりも短い償還年数で起債する団体が増えたか、満期一括償還方式での起債を行った後、減債基金への積立を怠っていた団体が積み増しを行ったかのいずれか、もしくは両方が必要であり、都道府県全体として財政運営の堅実さが増していると評価できる。

他方、市町村については、2013年度時点でも「差額」が拡大している。交付団体のみに限定して「差額」を計算することができないために実勢よりもマイナス幅が大きめに計算されており、本当に悪化が進んでいるとは限らない(*6)。状況を正しく把握するために、市町村毎のデータ公表が強く望まれる。

臨時財政対策債 図6

このように、単純な集計値に基づく分析には限界があることも事実であり、個別団体ごとのデータが利用可能な都道府県について、46道府県のうち、各年度末において累積した不足額がある(現実の償還累計額が交付税措置累計額を下回る)団体のみを集計して、46道府県合計ベースと対比させたのが、図表-6である。

これを見ると、不足団体に限れば、マイナス幅が依然拡大している。2013年度末の「差額」は4010億円であり、46道府県全体の措置累計額の36%に相当する大きさである。46道府県合計ベースでは不足額が縮小している事実と合わせると、個別道府県においては、堅実な償還という意味での改善と悪化の2極化が進みつつあることが推測される。

元利償還費に対する国からの交付税措置があるといっても、起債した後は自らの責任において資金管理しなければならない。そのことを踏まえて、堅実な償還を行う団体が増える一方、「償還不足」の状況を続ける団体も依然残っている。

少なくとも、地方債総残高から臨時財政対策債残高を控除した金額を実質的な債務残高とみなす考え方が問題なく適用できるのは、こうした「償還不足」がない地方公共団体に限られるはずである。

不足がない団体においては、元利償還金のうち元金部分に対する今後の交付税措置見込額が臨時財政対策債の現存残高を上回るが、不足のある団体においては、今後の交付税措置見込額は臨時財政対策債残高よりも少ないと考えられるからである。