金融所得一体課税
(写真=Thinkstock/Getty Images)

証券会社の営業員が顧客に対して、外貨MMFや債券の売却を盛んにすすめている。外国債券はもちろん、国債にいたるまで顧客に売却を促しているのだ。この背景には2016年1月から債券に関する証券税制の改正がある(金融所得課税の一体化)。


証券税制改正で何が変わるのか

今回の改正により、多くの投資家が利用している特定口座の利用が便利になる。特定口座とは、その口座を選択した場合には、上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額に関して金融機関が計算を行い、特定口座年間取引報告書で簡便に申告を行うことができるというものだ。

現状、上場株式と投資信託のみが特定口座の対象だが、16年1月からは国内債券、外国債券、MMF、外貨MMF、MRFも特定口座での取引が可能となる。さらに、これまでは不可能だった公社債や公社債投信等の利子や分配金と売買損益の損益通算が可能となる。こうした点においては投資家の利便性が増す。その一方で、国内債券・外国債券の売買損益はこれまで非課税であったが、所得税及び復興特別所得税15.315%に加え住民税5%が申告分離課税されることになる。MMF、外貨建MMF、MRFもこの改正の対象となるのだ。

実は盲点だった債券税制

金融商品の税制というのは実に複雑だ。最も多くの投資家になじみがあるのは、預貯金や上場株式、投資信託に関する税金だろう。預貯金の利子は利子所得、上場株式については売却益は譲渡所得、配当金は配当所得としてそれぞれ課税される。

ところが、国内債券の売却益、外国債券(利付債)の売却益は現行税制のもとでは非課税である。しかし、債券の償還差益は雑所得として課税される。ここには大きなヒントが隠されている。ポイントは売却益と償還差益の違いを理解しているかどうかということだ。

債券には満期があるが、流動性の高い債券なら満期まで保有せずに途中で売却することも可能だ。満期まで債券を保有せずに途中で売却したときに得られる利益が売却益。そして満期まで保有したときに得られる利益が償還差益だ。つまり、保有債券を途中で売却した際に得られる利益は非課税で、満期まで保有した際に得られる利益に対しては課税されるというわけだ。

もし外貨建MMFを保有していたら

もし1ドル100円の時に外貨建MMFを1万ドル分購入していたと仮定しよう。現在の為替レートはおよそ120円。単純に計算すると、20万円の含み益がある。15年12月までに外貨建MMFを売却したなら、20万円の売却益は非課税なのだ。ところが、16年1月以降であれば売却益の20万円は申告分離課税(20.315%)の対象となる。その税額は40,630円だ。12月に売却するのと翌1月に売却するのとではこれだけの税負担の違いがあるのだ。

14年10月31日、日銀が追加金融緩和を発表したことで為替レートは一気に現在の水準へと円安が進んだ。それ以前に外貨建MMFや外国債券を保有していた投資家は為替差益を得ることができる可能性が高い。これらの資産を保有している投資家に対し金融機関の営業員が非課税で売却が可能な間に売却を提案することは実に理にかなっていると言える。

対象は、外貨建の資産を保有している投資家だけでは無い。日本国債を保有している投資家でも実は売却により利益を手にできる可能性が高いのだ。やはり、追加金融緩和の影響だ。日銀が国債を大量に購入した結果、金利は低下している。つまり、国債の価格は上昇しているため、国債を保有している投資家も途中売却により利益を出すことことができないか、検討してみるべきだろう。

途中売却の落とし穴

投資家にとって非課税で売却できるメリットは大きい。しかし、全てのケースで年内に売却する方が良いとは限らない。これまでは不可能だった、上場株式等との損益通算が可能となる。さらに、譲渡損失を3年間繰り越すことができる。

例えば、米ドル建債券を保有している投資家の多くは含み益を抱えていると想像されるが、トルコリラやブラジルレアルなど新興国通貨で運用している投資家は含み損を抱えているだろう。現在は認められていないが、税制改正によって含み益がある上場株式と含み損のある外国債券は損益通算が可能になる。利益を圧縮することができ、節税につながるというわけだ。

このように、投資家一人ひとりの保有資産の状況によって異なるため、一概にどの方法がベストであるかを判断することは実に難しい。それぞれがどのような資産を保有し、それぞれの損益がどのようになっているかを把握する必要がある。

証券会社の営業員があなたの「外貨MMF」の売却を促すにはこうした理由があってのことだ。そうした彼らの活動は合理的であり、投資家の利益にかなったものであり、検討してみる価値は十分にある。しかしその一方で、投資家の全ての資産の状況を把握したうえで売却を促しているとは限らない。年内売却が必ずしもお得とは言えないケースもあることもあるのだ。また、売却後の提案内容に関しても、自分にあった提案なのかは慎重に検討するべきだろう。(ZUU online 編集部)