追加金融緩和はあるのか

日銀は、12月の金融政策決定会合で、輸出の判断を「横ばい圏内」から「持ち直し」へ既に上方修正している。1月の月例経済報告では、政府は生産の判断を「弱含んでいる」から「横ばいとなっている」へ上方修正している。確かに、グローバルなマーケットの不安定感が更に増加するとともに株安・円高が進行し、黒田日銀総裁の「必要と判断すれば、さらに思い切った行動をとる容易がある」という発言もあり、追加金融緩和の可能性は以前より高まっている。

しかし、政府・日銀が輸出と生産の判断を上方修正し、景気動向に改善がみられるとの判断の中で追加金融緩和が決定するには、それを正当化するかなり強いロジックが必要となろう。本日の経済指標の発表は、弱さはみられるが、その上方修正の判断を覆し、追加金融緩和を完全に決するには力不足で、緩和をしたい黒田総裁と慎重な審議委員の間の票読みで決まる形に変化はない。

そして、重要なことだが、株安や円高は、日銀の追加金融緩和の正式な理由とすることはできないことになっている。10月30日に、直前までグローバルなマーケットは脆弱で、成長率と物価見通しを大幅に下方修正し、2%の物価目標の到達時期を後ずれさせながら、追加金融緩和に踏み切らなかったことの整合性も問題となろう。

追加金融緩和が決定する場合、原油安がインフレ期待を押し下げてしまっていることがその正式な理由の候補だろう。2014年10月の追加金融緩和時も、「短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある。

こうしたリスクの顕在化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここで量的質的金融緩和を拡大することが適当と判断した」と説明されている。しかし、1月25日にダボスで、黒田総裁がインタビューに答えて、「現時点で期待インフレ率は比較的維持されており、大きく低下しているとは思わない」と発言してしまっていることが、そのロジックを前面に押し出すことに対する足かせとなる可能性もある。

一方、わずか3ヶ月の間に2%の物価目標達成時期を更に先送りすることは、日銀の政策目標のコミットメントへの疑念につながるため、これまでの政策ロジックを貫くことができず、ある意味で追い込まれてしまい、追加金融緩和を決定する可能性もある。その場合、コミットメントへの信任が最重要であり、インフレ期待の低下などの追加金融緩和の理由は後付けだと考えられる。インフレ期待に対する日銀の判断は突然に変化したことになり、いつもながら、マーケットとのコミュニケーションの弱さが問題になろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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