(写真=Thinkstock/Getty Images)
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追加的な財政緊縮策をとらないと2020年度の基礎的財政収支(一般政府収支から債務の利払い費を除いたもの)黒字化という政府目標の達成が困難であるという内閣府の中長期の経済財政に関する試算の問題点として、試算の起点となっている2014年度の一般政府収支の赤字幅の前提が過大であることを指摘してきた。

1月21日に改定された中長期の経済財政に関する試算では、2020年度の基礎的財政収支は-1.1%(GDP比率)となり、消費税率引き上げにともなう軽減税率の導入により、これまでの-1.0%から悪化している。

12月25日に公表された2014年度の国民経済計算確報(資金過不足、実物取引)では、一般政府収支の赤字(GDP比率)は-5.2%(2013年度は-7.6%)となり、内閣府の試算である-6.5%から、1.3ppt(6.4兆円程度)も大きく改善していることが明らかになった。

改定された中長期の経済財政に関する試算では、2014年度の一般政府収支の赤字がこれまでの-6.5%から-5.2%へ修正された。

本来であれば、2015年度以降の赤字幅の推計値も同程度縮小すると考え、2020年度の基礎的財政収支は、もともとは-1.1%と赤字であるが、+0.2%の黒字になるはずである。

しかし、改定された中長期の経済財政に関する試算では2015年度と2016年度の一般政府収支の赤字の試算がともに-5.1%となっており、2015年度と2016年度の改善が全くないという前提を強引において、2020年度に基礎的財政収支の赤字が残るというシナリオを堅持した。

2016年度は既に政府予算案ができているため、中長期の経済財政に関する試算はそれを基につくられ、国債費を含む歳出入は同じ数字となっている。

しかし、2016年度の政府予算の国債費は国債10年金利が1.6%程度であることを前提につくられているが、中長期の経済財政に関する試算のモデルの前提は0.7%となっており、大きな乖離がある。さらに、政府予算ではきわめて低い税収弾性値をおいて、税収を低く見積もるバイアスがあり、2016年度の税収の数字は過小評価されていると考えられる。

バイアスが感じられる試算

2016年度の一般政府収支の赤字幅は、成長率や金利などのモデルでの結果を政府予算でオーバーライトされてしまい、2014年度までの財政収支の改善がうまく反映されなかったと考えられる。2015年度の一般政府収支の赤字幅は、2014年度の実績とこのバイアスをもった2016年度の数字と整合的になるように機械的におかれていると考えられる。

日銀の資金循環統計ベースで日本の一般政府収支の赤字(資金過不足)は2015年7-9月期までの一年間で-3.8%となっている。もうすでに、2015年度以降の中長期の経済財政に関する試算の一般政府収支の赤字幅は過大になってしまっているようだ。

国民経済計算確報の財政赤字が実物取引の過不足で、資金循環統計は金融取引の過不足であることによる誤差(理論上は一致する)はあるが、2015年度と2016年度の赤字幅が過大推計であることは確実だろう。

2017年度以降の中長期の経済財政に関する試算は、消費税率引き上げと軽減税率などが考慮され、モデルによる推計値になっていると考えられる。そこでは、2020年度までに国債10年金利が4%近くまで暴騰するという極端な前提をおき、財政収支の改善ペースができるだけゆっくりになるように調整しているようだ。

2017年度から2020年度までは-4.1%・-3.5%・-3.3%・-3.3%となっており、消費税率引き上げ分しか財政収支が改善しないシナリオとなっている。起点の2015年度の1.3pptのバイアス(試算の-5.1%と資金循環統計の-3.8%の差)を修正し、リフレによる改善ペースが続くと仮定すると、追加的な財政緊縮策がなくても、2020年度には、基礎的財政収支だけではなく、一般政府収支も黒字化する可能性がある。

リフレ政策による景気回復が税収の大幅な増加に寄与しており、緊縮財政ではなく、リフレ政策によって財政を改善させるアベノミクスの方向性の正しさと大きな成果としても認識されてきた。

しかし、増税をしないかぎり一般政府収支の赤字が減少しないという改定された中長期の経済財政に関する試算は、アベノミクスの効果を否定している。中長期の経済財政に関する試算は、消費税率引き上げの計画通りの実施や追加的な財政緊縮策の方向性を作るバイアスが感じられ、問題がある。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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