住宅ローンを出来るだけ早く返済したいと考えた時「繰り上げ返済」を上手く利用することで、予定していた完済の時期を早めることができる。「繰り上げ返済」とは、毎月の返済(ボーナス時の返済がある場合はボーナス時の返済を含む)とは別に、手元にある資金を返済にあてることで、ローン残高を効果的に減らすことができる方法である。手続き方法は、金融機関によってさまざまなので、しっかりとその仕組みを理解した上で利用したい。
まずは「繰り上げ返済」の仕組みを理解しよう
住宅ローンを利用した場合、毎月の返済は、元金とその利息に充てられている。「繰り上げ返済」は、返済した全額が元金のみに充てられるため、その分の利息が一気に減るしくみである。「繰り上げ返済」をした場合の効果は、次の2種類から選択することができる。
・期間短縮型……毎月の返済額を変えずに期間を短縮する方法
・返済額軽減型……期間を変えずに毎月の返済額を減らす方法
具体的なモデルケースを想定して解説しよう。夫は45歳で自動車メーカー勤務、妻40歳はパートタイマーで働いている。子供は長男12歳、長女10歳の2人。年収は夫が税込み800万円、妻が100万円で合わせて900万円となる。ローンの詳細は以下の通り。
ローン残高 2500万円
残り返済期間 25年
借入金利 3%
ボーナス払いなし
毎月の返済額 9万6212円
ここでは繰り上げ返済の手数料を考慮しない条件で、「100万円の繰り上げ返済」をしたケースについて考えてみたい。
期間短縮型を選択した場合、残りの返済期間は23年3カ月で「繰り上げ返済」前より1年9カ月短縮される。減少する利息額は105万6485円となる。
他方、返済額軽減型では毎月の返済額が、9万1459円となり4753円の減額。減少する利息額は、42万1065円となる。
返済総額の効果だけで比較すると、期間短縮型を選んだ方が、返済総額が減り、お得な気がするが、「教育資金など将来の大きな支出に備えたい」、「変動金利型や固定金利選択型で、金利上昇のために返済額がアップする事態に備えたい」という方には、返済額軽減型が向いている。それぞれの目的によってどちらのタイプを選んだ方がいいのか慎重に検討する必要がある。
「繰り上げ返済」のメリット、デメリットを知る
前述のように「繰り上げ返済」を利用すると、当初予定していた返済計画より、完済できる時期が早くなるか、毎月の返済額を減らすことができる。では、多少無理をしてでも手元の資金を使って「繰り上げ返済」をすべきなのか? ここからは「繰り上げ返済」のメリット、デメリットについて考えてみる。
まず、メリットとしては「借金が少なくなることによって精神的に余裕ができる」点を挙げることができる。晩婚化に伴い、住宅購入の時期も30代、40代が当たり前の時代である。ローン期間35年で、定年後もローンを払い続ける予定だったのが「繰り上げ返済」の期間短縮型を選択し、どうにか定年までにローンを完済することができれば、それまで後回しにされていたセカンドライフについても考える余裕がでてくる。
デメリットとしては、「手元の資金がなくなって、急な出費が必要となったときに困る」「住宅ローン特別控除の対象外になる可能性がある」の2点を指摘できる。
人生はいつ何が起こるか分からない。家族が病気になった場合など、不測の事態には、すぐに対応できる現金が手元にあるのとないのとでは、その後の生活が大きく変わってしまう。住宅ローン特別控除についても、「繰り上げ返済」で返済期間を短縮しすぎると、せっかくの控除が使えなくなる可能性がある。
家計をスリム化して余裕資金を確保すること
「繰り上げ返済」で後悔しない意味で最も大切なことは、あくまでも余裕資金を充てるということである。ローンを抱えていることが決して悪いことではなく、ローンがあっても不測の事態に備えられるだけの貯蓄があれば、何ら問題はない。まずは、月々の支出の見直し、加入保険等の見直しを十分に吟味したうえで、家計をスリム化することをお勧めしたい。そこで余裕資金を確保して初めて「繰り上げ返済」を検討することが、真の意味での賢いマネープランといえるだろう。
杼木 美絵 ファイナンシャルプランナー(CFP)・行政書士
子どもが1歳の時、ファイナンシャルプランナーを目指して勉強を始めCFP(FP協会認定)を取得。その後、行政書士資格も取得し『お金のことから法律まで』身近に相談できるFPとして滋賀で開業。
FPCafe
登録FP。
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