2016年に入り、世界の金融市場は激しい相場変動に見舞われている。「そろそろ投資を」と考えていた潜在的な投資家で肝を冷やされた方もいたのではないだろうか。それでは「貯蓄に戻るのか」といっても、日本は「マイナス金利」時代に突入、長期国債金利が一時マイナスになるなど、もはや資産の行き場がないようにも見える。

しかも、長い間日本経済を支配していた「デフレ」からの脱却が目の前に来ている。日本企業のグローバル化が進み企業収益が安定したことや、米国など世界景気の回復、成長経済に向けた安倍政権の施策などから、物価やサービス価格は上昇に転じている。長期的に保有資産の価値を目減りさせないためには、「投資」によって「資産を育てる」必要があるのだ。

ではここでは投資初心者がどのように資産を育てれば良いのか、その基盤となる「インカム投資」の考え方をご紹介しよう。

実は2.0%を超える日本の長期インフレ

デフレが長かった日本経済からは理解しにくいが、長期で見ると物価上昇はかなり進んでいる。1980年と2014年の物価を比較すると、カップ即席めん60円→143円、食パン一斤107円→142円、航空運賃(東京→札幌)2万3400円→4万190円といった具合だ。実は日本の長期インフレ率の平均は約2.7%。通常の経済ではこの程度の物価上昇は覚悟した方が良いということになる。

むろん預金でこの利回りは出ない。であれば国債投資ということになるが、日本国債は論外として、世界国債でも利回りは1.4%しかない。足元は金利が低下しているからだ、という見方もあるが、過去10年の平均で見ても世界国債の利回りは2.2%と、実は日本の長期インフレ率に届かないのである。これでは為替リスクを取って投資するのは難しいといわざるを得ない。

「国」の時代から「企業」の時代への転換

では、どうすれば良いのか? 「国」ではなく「企業」に目を転じると、世界株式の騰落率の長期平均は、年平均5.6%だ。また世界社債の利回りの長期平均も6.5%で、共に日本の長期的なインフレ率2.7%を大きく上回っている(過去10年、2015年末)。

考えてみれば、世界経済はグローバル化が進展している。経済成長の鍵は「国」や政府支出にあるのではなく、グローバル市場拡大の恩恵を受けている「企業」にある。

多くの「国」は財政赤字にあえぎ、金融緩和政策も、一部の国ではゼロ金利導入まで踏み込むなど終局にあり、打つ手は徐々に限られてきているように見える。対して「企業」は、グローバルに成長機会を追求し、IT化や安い労働力をフルに活用し、M&Aを含む積極的な経営戦略で成長している。

ならば投資の行く先も、「国」ではなく、「企業」にシフトするのが自然であろう。また世界の経済成長が高まれば、国債は金利上昇の影響を受ける可能性があるが、株式や社債のリターン(総合収益率)は高まると期待される。「企業」に投資すれば、景気拡大とインフレ率の高まりに対応しながら「資産を育てる」ことが期待できる。

「企業におカネを預けて稼がせる」という発想

「企業」の発行する資産は、株式、社債、ローンなど多様だ。企業の売り上げはインフレ率+実質成長であることから、いずれの企業関連資産もインフレ対応力は十分だ。

株式と社債の違いは、企業の成長力を全て債券の利金でもらうか、一部を配当で支払ってもらい、残りは内部留保として株式価値、つまり株価の上昇で間接的に返してもらうかの違いだ。どちらも、企業におカネを預けて、業務で稼いで返してもらう構図は同じだ。長期では、世界株式の上昇率と世界社債の利回りが同水準になっているのは、このためだ。

さらに、「企業」への投資資金は、企業活動の拡大・発展を目的として使われる。新技術や新薬の研究開発や、新製品の生産や新サービスを、新しい地域で提供するための拠点作りなどだ。こうした「企業」への投資は、「資産を育てる」だけでなく、世界経済の発展、ひいては世界の人々のより良い生活や快適な環境のために資産が使われることを意味する。

ただ、「投資」では成長性や安定性などに十分配慮する必要がある。投資先として国債など「国」の発行する資産に投資する場合は、投資の安定性は高まるが、資産の実質的な目減りを防ぐ成長性が不足する可能性がある。「企業」に投資すれば、成長性が高まると期待されるが、安定性が見劣りする可能性がある。

答えのひとつは分散投資だ。世界の幅広い企業が発行する、さまざまな資産に投資すれば、資産の分散、国・地域の分散、企業の分散を図りながら、資産を育てることが可能となる。ただし、2016年初来のような世界的に同時に起こる相場変動には太刀打ちできない。少なくとも、こうした変動に動じない心構えが必要となる。

もうひとつの答えが「インカム投資」だ。「インカム投資」では投資初心者でも安心感のある投資が可能となる。その理由と魅力は次の機会にご説明しよう。

資産を育てるインカム投資

(注)RIMESおよびBloombergよりフィデリティ投信作成。期間は2005年12月末~2015年12月末。米ドルベース。世界株式はMSCIワールド・インデックス、世界社債はバークレイズ・グローバル総合・コーポレート・インデックスとバンクオブアメリカ・メリルリンチ・グローバル・ハイ・イールド・コンストレインド・インデックスの均等平均、世界国債はシティ世界国債インデックスを各々使用。長期インフレ率は日本の消費者物価指数の1971年1月~2015年12月の平均値。