米国の政策金利、FF (エフエフ) 金利 (フェデラル・ファンド・レート、以下「米金利」) の利下げ動向に世界中の投資家が注目している。世界の基軸通貨である米金利の動きは、新興国通貨にどのような影響を及ぼすのだろうか。過去の事例を振り返りつつ関連性を探る。

米金利の下げは、新興国通貨高を招くのか ?

米金利の下落局面では新興国通貨はどう動く ?
(画像=Kent Weakley/Shutterstock.com)

米金利の利下げ観測が市場関係者の注目を浴びている。与える影響範囲は計り知れず、世界各国の金融商品の価格や利回り、設備投資や雇用にまで及ぶ。その1つが新興国通貨の為替レートだ。

理論上、米金利が下がれば新興国通貨が上昇すると考えられる。米金利が下がると投資先としての魅力が低下し、米国の債券よりも利回りが高い他の国の債券を買ったほうがリターンを得ることができるからだ。

もう少し詳しく説明しよう。ある大金持ちがいたとして、数百億円の資産を持ち、その保管場所を常に探している。保管先の条件は、第一に元本割れの心配がほとんどなく、第二になるべく利回りが高いことだ。このような状況で、あなたならどうするだろうか。

普通預金であれば元本割れを起こすことはないが、銀行が破綻するリスクがある。日本には預金保護制度があるが、1つの金融機関につき1,000万円が限度だ。そこで債券に目をつける。政府が元本を保証する国債であれば、第一の条件は満たせるからだ。

ただし債務不履行を起こしたギリシャの例しかり、国債も絶対に安全とは言えない。リスクが低いと考えられているのは、ドイツやフランス、カナダなど先進国の国債だ。とりわけ米ドルが基軸通貨として世界中に流通している米国債は、信用力が高い。

ここではシンプルに、米国債利回り=米金利と考えていただきたい。元本割れの心配がなく、利回りが高ければ、米国債を選ぶはずだ。しかし米金利が下がると、国債の利回りも下がるため魅力が軽減してしまう。そこで第一の条件である安全性を多少犠牲にしても、相対的に利回りが高い新興国の国債を買おうとするのだ。その結果、新興国に資金が流入することになり、当該通貨のレートは上がる。かなり単純化しての説明だが、これが米金利の下落によって新興国通貨が上昇すると考えられる理由だ。

実際の動きはどうだったか

実際の新興国通貨と米金利との関係をみてみよう。図は直近1年間の米2年国債利回りとMSCI新興国通貨指数の変動を表したものだ。

図1
(注)
縦軸の数値は2018年7月1日を1とした各週の終値
MSCI新興国通貨指数……新興国25ヵ国の米ドル建ての値動きを加重平均したもの)

米国債利回りとMSCI新興国通貨指数の相関係数は「-0.600」を示す。相関係数は-1~1の範囲で、数値が高いほど関係が強いといえる。マイナスは負の相関、つまり反対の値動きをしていることを表す。「Aが下がるとBが上がる」という関係だ。新興国通貨指数は米金利との間に負の相関がある。理論通り、「米金利が下がると新興国通貨は上がる」ということだ。

実体経済の動きを注視することが大切

上記より、米金利の下げに応じて、新興国通貨全体は上がる傾向にある。これは理論どおりの動きだ。では、新興国通貨が理論どおりの動きをしない原因には、どのようなものがあるのだろうか。

1つは、米金利の下げに対抗して、各国の政府が自国の金利を下げていることが考えられる。その結果、新興国に投資することへの魅力が減り、資金の流入が抑えられるのだ。

なぜ新興国が利下げをするのかというと、輸出競争力を維持するためだ。通貨が上がると、貿易の相手国にとっては自国通貨ベースでの輸入価格が上がるため、モノが売れにくくなってしまう。貿易収支の悪化を予防するためにも、各国政府は自国の通貨高を黙って見過ごせない。そのため金利を下げ、自国通貨を買われないようにする。

実際にフィリピン政府は、米金利の利下げが現実味を帯びてくるやいなや、2019年5月に6年ぶりの利下げを実行した。米金利が年間を通して上昇した前年には5度の利上げを行っていたことも考えると、米国の動きに追随しようとしているように見える。他にもニュージーランドやオーストラリアなど、米金利下落の予想にもとづき、先回りするように利下げした国は少なくない。

もう1つ、為替レートの変動要因は、債券購入などの需給によるものだけではない。国の経済状況によっても変わるのだ。一般的に貿易黒字が多く、外国に対する債権額が多いほど、レートは高くなりやすい。国内景気が好調な場合も同様だ。信用力が高まり、投資を呼び込みやすいからだ。

全体としては上昇基調だが個別の分析が必要

米金利の利下げは、金利が高い新興国への資金流入を誘う。新興国通貨を押し上げる要因の1つにはなるだろう。ただ、それだけがレートの変動要因ではない。各国政府の政策金利や経済状況も併せて総合的に分析していただきたい。(提供:大和ネクスト銀行


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