年金だけでは老後に資金が不足するとされる、いわゆる「老後2,000万円問題」が一時大きな話題となった。この“2,000万円”という数字には様々な意見があるが、実際、自分の将来の年金について不安を感じている人は少なくないだろう。

日本の年金制度には、他の国と比べて何か問題でもあるのだろうか。実は、世界の年金制度をランキング付けした調査がある。さて、日本の順位はどれくらいなのだろうか。

マーサーの「グローバル年金指数ランキング」とは ?

なぜ日本の年金は世界で低評価なのか ? ランキング結果とともに紹介
(画像=yu_photo / stock.adobe.com)

米コンサルティング大手のマーサー社は、2009年から世界の多くの国の年金制度を評価し、ランキング付けをして発表している。2021年の調査では世界43ヵ国が調査対象となり、世界の人口の3分の2が網羅されているという。当然、日本も調査対象だ。

50以上の評価項目は多岐にわたるが、それらは大きく3つのカテゴリーに振り分けることができる。その3つとは、年金額が生活を営む上で十分かどうかの「十分性」、年金制度が持続可能かどうかの「持続性」、そして年金制度の運営が健全で透明であるかどうかの「健全性」だ。

各項目の評価点数はまず3つのカテゴリーごとに集計される。さらに3つのカテゴリーの点数を重要度に応じて重みづけし、それらを合計した総合指数値でランキングが決定されている。ちなみに、カテゴリーごとの重み (ウェイト) を見ると、十分性が40%と最も高く、次いで持続性が35%、健全性が25%となっている。調査では更に、総合指数値に応じて各国をA~Dにランク分けしている。

日本は43ヵ国中36位

そして肝心の日本の順位はというと、43ヵ国中36位と、かなり残念な結果となっている。総合指数値は49.8で、ランクはDだ。このランクはタイやインド、フィリピン、韓国と同じだ。では逆にAランクの国はどこかというと、今回初参加にもかかわらず堂々1位となったアイスランドと、オランダ、デンマークの3ヵ国である。オランダやデンマークはこの調査では常に高いランキングを維持している。

その他、主要国のランクを見てみると、オーストラリアがB+ランクと高く、フィンランドやスウェーデン、イギリスなどはBランク、米国やフランスなどがC+ランク、中国などがCランク、となっている。

もう少し詳しく日本の点数を3つのカテゴリーごとに見てみると、十分性が52.9、持続性が37.5、健全性が61.9であった。それぞれのカテゴリーの世界平均は、62.2、51.7、72.1である。日本は、特に持続性に問題があると見られていることが分かるだろう。

日本は世界一の長寿国であり、それに加えて少子化が止まらない。日本の公的年金制度は実質的には賦課方式となっており、現役世代から徴収した保険料収入の中から、高齢者に年金を支払う仕組みである。現役世代の人数が減り、高齢者が長生きして人数も増えていくという時代にあっては、どうしても持続性には不安が生じる仕組みだと言わざるを得ない。

今回1位となったアイスランドでは、3つのカテゴリーが全てAランクだった。アイスランドは日本よりも平均寿命が短いはずだが、年金の一般的な受給開始年齢は67歳とされる。日本も年金制度をより持続的なものにするために、今後も受給開始年齢の引き上げや私的年金の使い勝手の改善など、色々と知恵をしぼっていくべきなのだろう。

アジアではシンガポールが1位

アジア域内で見ると、ランキングが最も高かったのは10位のシンガポールだった。ランクはBで、点数ではそれぞれ、総合指数70.7、十分性73.5、持続性59.8、健全性81.5となっている。

シンガポールの年金制度は積立方式である。自分が現役の間に貯めておいたお金で、老後の生活を賄う仕組みだ。一定以上の収入がある勤労者は、政府が管理する「中央積立基金」の中の自分の口座に、強制的に積み立てることになる。積立の額は、雇用者側が給与の20%を、被雇用者側が同17%を負担する。積み立てた資金は、年金だけでなく、医療費や住宅購入などに充てることもできる仕組みとなっている。

この方式であれば、社会で少子高齢化が進もうが、自分の年金に影響が出ることはないだろう。ただし、思った以上に長生きしてしまった場合、積み立てていた自分の資金が枯渇してしまうという、いわゆる“長寿リスク”はある。シンガポールがこれからも豊かで、若い間の積立が順調に進み、さらに将来の物価も安定するのなら、持続可能性は高い制度なのかもしれない。しかし、デメリットが全くないわけでもなさそうだ。

中国の年金制度は世界で最も改善が見られた

世界の年金制度の中で最も改善が見られたのは、中国だった。同国の年金制度は、従来のDランク (総合指数 47.3) からCランク (同 55.1) に格上げされた。マーサーはこの理由として、「純所得代替率の上昇と規制の改善、特に出生政策の最適化、定年の段階的引き上げ、国家主導の保障を補完する「第3の柱」の年金制度の整備などの取り組みによるもの」であるとしている。中国が一人っ子政策の廃止によって目指す出生率の上昇や、定年の段階的引き上げなどは、日本でも同様に目指している方向である。日本よりも少子高齢化が深刻とされる中国の取り組みとその結果には、日本も注目しておくべきだろう。

公的年金に頼らない仕組みづくりも視野に

実際のところ、各国の年金制度には、それぞれの歴史的変遷や社会背景などの様々な事情がからみ、簡単に比較できるものではない。マーサーの調査でも、制度の内容が相当に異なるものを横並びに評価しており、そのランキングは必ずしも実態を正確に反映していないかもしれない。しかし、それでも日本の年金制度に課題があることは確かだ。日本の年金制度を理解しつつ、場合によっては公的年金に頼らないための資産形成、つまり“私的年金”の仕組み構築も視野に入れておこう。

(提供:大和ネクスト銀行


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