米国に次ぐ経済規模を誇る中国は、近年平均所得の伸びが顕著である。特筆すべきは、富裕層が急増していることだろう。本記事では、中国の富裕層の人数や富裕層増加に伴う中国経済への影響を考察していく。
目次
そもそも「富裕層」の定義とは?
中国の富裕層について考察する前に本記事で「富裕層」と書く際の定義をはっきりさせておこう。なぜなら「富裕層」には、明確な定義はなく調査レポートなどによって基準が異なることがあるからだ。国際的によく基準とされるのは「純金融資産が100万米ドル以上(1米ドル110円換算で約1億1,000万円)」といった基準である。
富裕層に関する調査結果でよく引用されるのが国際調査会社Wealth-Xが発表しているデータだ。Wealth-Xでもこの基準を採用している。スイス金融大手クレディ・スイスも同様の調査を実施しておりWealth-Xと同様に純金融資産100万米ドル以上を富裕層としている。ちなみに日本では、野村総合研究所の基準がメジャーだ。
野村総合研究所では、富裕層を純金融資産が1億~5億円未満の層と定義しておりほぼWealth-Xやクレディ・スイスの基準と合致している。これらを踏まえて本記事では、富裕層を「純金融資産が100万米ドル以上」と定義して解説していく。
中国の富裕層の人数は? 2020年時点で527万人
中国には、どのくらいの富裕層がいるのだろうか。参考にするのは、クレディ・スイスが2021年6月に発表した「グローバル・ウェルス・レポート2021」だ。同レポートによると2020年時点の中国における「100万米ドル以上の富を有する成人の数」は、約527万9,000人となっており1年間で約25万7,000人増加した。増減率に換算すると5.1%増となる。
「ミリオネアの密度」は2020年時点で0.5%
同レポートでは、中国における「ミリオネア(富裕層)の密度」も紹介されている。かみ砕いていえば「人口の何%が富裕層か」という数字のことだ。2000~2020年にかけて5年刻みで以下のように推移している。
<ミリオネア(富裕層)の密度>
年 | 富裕層の割合 |
---|---|
2000年 | 0% |
2005年 | 0% |
2010年 | 0.1% |
2015年 | 0.3% |
2020年 | 0.5% |
2000~2005年は、0%だったが2010年に0.1%、2015年に0.3%、2020年には0.5%まで上がっている。
中国で「上場企業の役員」が続々富裕層入り
中国の深センに本社を置く招商銀行と米コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーが共同で行った「2021年中国個人資産報告」を参考にしながら中国の富裕層について分析していく。本調査では、富裕層の中でも1,000万元(1元=約17円換算で約1億7,000万円)の層を対象に調査を行っている。
上場している企業の会長や監査役、上級管理職などが富裕層になるケースが増えている点は、興味深い。
上場企業の事業規模や利益の拡大が一因か
これまでは、新たに富裕層に加わった人で「起業家」の割合が高かった。しかしこうした兆候に変化が出てきたのだ。2019年において上場している企業の会長や監査役などの富裕層が全体に占める割合は36%だったが、2021年には43%まで増えた。中国経済が成長するにつれて上場企業の事業規模や利益が大きくなり結果として上場企業の役員の収入が増えていることが理由として考えられる。
中国の富裕層の暮らしぶりは? 高級EVが人気
中国人の富裕層は、どのような暮らしをしているのか。極論をいえば富裕層によって暮らし方や行動はさまざまだが傾向はある。中国の富裕層向け雑誌の発行などを行う「胡潤百富(Hurun Report)」によると2018年度における1,000万元以上の資産を有する世帯の在住地のトップ5は以下の通りだ。
順位 | 在住地 |
---|---|
1位 | 北京 |
2位 | 上海 |
3位 | 香港 |
4位 | 深セン |
5位 | 広州 |
1位の北京には、約29万4,000世帯が住んでいるという。中国の富裕層は、国内で手に入らない製品や食料品への関心も高い傾向だ。このほか都心部の高価なマンションを購入したり新興のEV(電気自動車)メーカーが販売する新型車を乗り回したりする人も多い。ちなみに中国の新興EVメーカーといえば「NIO」(ニオ)などが有名だ。NIOは、富裕層をターゲットに車両を開発している。
日本円にして1,000万円近い車種の販売台数も好調に推移しているという。NIOのEVは、米EVメーカーのテスラの高級EVなどと同様、車両を保有することが富裕層のステータス・シンボルの一つとなっている。
中国の富裕層を他の国と比較すると?
ここまで中国の富裕層について考察してきたが世界の主要国と比べると数は多いのだろうか。世界の主要国における2020年の富裕層の人数と増加数(2019年との比較)は、以下の通りだ。
<主要国の富裕層の人数と増加数>
順位 | 国 | 人数 | 増加数 |
---|---|---|---|
1位 | 米国 | 約2,195万1,000人 | 約175万人 |
2位 | 中国 | 約527万9,000人 | 約25万7,000人 |
3位 | 日本 | 約366万2,000人 | 約39万人 |
4位 | ドイツ | 約295万3,000人 | 約63万3,000人 |
5位 | 英国 | 約249万1,000人 | 約25万8,000人 |
6位 | フランス | 約246万9,000人 | 約30万9,000人 |
7位 | オーストラリア | 約180万5,000人 | 約39万2,000人 |
8位 | カナダ | 約168万2,000人 | 約24万6,000人 |
9位 | イタリア | 約148万人 | 約18万7,000人 |
10位 | オランダ | 約103万9,000人 | 約21万4,000人 |
※出典:グローバル・ウェルス・レポート2021
中国の富裕層の人数は、米国に次いで多く日本やドイツの人数を抜いて約527万人もいる。一方で本記事前半に紹介した「人口の何%が富裕層か」を示す「ミリオネア(富裕層)の密度」の割合が高い国はどうなっているだろうか。以下が各国の比較だ。
<2020年におけるミリオネア(富裕層)の密度の国際比較>
国 | 密度 |
---|---|
スイス | 14.9% |
オーストラリア | 9.4% |
米国 | 8.8% |
香港特別行政区 | 8.3% |
オランダ | 7.7% |
スウェーデン | 7.3% |
デンマーク | 6.7% |
ニュージーランド | 6.3% |
ベルギー | 5.7% |
カナダ | 5.6% |
シンガポール | 5.5% |
アイルランド | 5.0% |
フランス | 4.9% |
オーストリア | 4.8% |
英国 | 4.7% |
ドイツ | 4.3% |
ノルウェー | 4.2% |
日本 | 3.5% |
台湾 | 3.1% |
スペイン | 3.0% |
イタリア | 3.0% |
韓国 | 2.5% |
中国 | 0.5% |
メキシコ | 0.3% |
ロシア | 0.2% |
インドネシア | 0.1% |
インド | 0.1% |
※出典:グローバル・ウェルス・レポート2021
中国は、0.5%とかなり低い数字となっている。つまり富裕層の絶対数において中国は「米国に次ぐ規模だが富裕層の割合でいうとまだ先進国にはかなわない」という状況だ。
富裕層の増加がもたらす好循環
中国で富裕層が増えることは、経済に好循環をもたらし富裕層が有する強い購買力が中国市場において消費を活発化させるだろう。また消費の活発化が企業の業績には追い風となり業績が上がれば従業員の収入も上がり国内消費がさらに活発となる好循環が期待できる。そのため今後の中国経済の成長力を予測するうえで「富裕層がどれだけ増えたか」という点は、十分に考慮に値するだろう。
引き続き中国の富裕層のデータをウオッチしていきたいところだ。
ご投資にあたっての留意点
取引や商品ごとに手数料等およびリスクが異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。
外国証券等について
外国証券等は、日本国内の取引所に上場されている銘柄や日本国内で募集または売出しがあった銘柄等の場合を除き、日本国の金融商品取引法に基づく企業内容等の開示が行われておりません。
手数料等およびリスクについて
国内株式等の手数料等およびリスクについて
国内株式等の売買取引には、約定代金に対して最大1.2650%(税込み)の手数料をいただきます。約定代金の1.2650%(税込み)に相当する額が3,300円(税込み)に満たない場合は3,300円(税込み)、売却約定代金が3,300円未満の場合は別途、当社が定めた方法により算出した金額をお支払いいただきます。国内株式等を募集、売出し等により取得いただく場合には、購入対価のみをお支払いいただきます。国内株式等は、株価の変動により、元本の損失が生じるおそれがあります。
外国株式等の手数料等およびリスクについて
委託取引については、売買金額(現地における約定代金に現地委託手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対して最大1.1000%(税込み)の国内取次ぎ手数料をいただきます。外国の金融商品市場等における現地手数料や税金等は、その時々の市場状況、現地情勢等に応じて決定されますので、本書面上その金額等をあらかじめ記載することはできません。
国内店頭取引については、お客さまに提示する売り・買い店頭取引価格は、直近の外国金融商品市場等における取引価格等を基準に合理的かつ適正な方法で基準価格を算出し、基準価格と売り・買い店頭取引価格との差がそれぞれ原則として2.50%となるように設定したものです。
外国株式等は、株価の変動および為替相場の変動等により、元本の損失が生じるおそれがあります。
投資信託の手数料等およびリスクについて
投資信託のお取引にあたっては、申込(一部の投資信託は換金)手数料をいただきます。投資信託の保有期間中に間接的に信託報酬をご負担いただきます。また、換金時に信託財産留保金を直接ご負担いただく場合があります。投資信託は、個別の投資信託ごとに、ご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なるため、本書面上その金額等をあらかじめ記載することはできません。
投資信託は、主に国内外の株式や公社債等の値動きのある証券を投資対象とするため、当該金融商品市場における取引価格の変動や為替の変動等により基準価額が変動し、元本の損失が生じるおそれがあります。
この資料は、東洋証券株式会社が信頼できると思われる各種のデータに基づき投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成したもので、投資勧誘を目的としたものではありません。また、この資料に記載された情報の正確性および完全性を保証するものでもありません。また、将来の運用成果等を保証するものでもありません。この資料に記載された意見や予測は、資料作成時点のものであり、予告なしに変更することがありますのでご注意ください。この資料に基づき投資を行った結果、お客さまに何らかの損害が発生した場合でも、東洋証券株式会社は、理由の如何を問わず、一切責任を負いません。株価の変動や、発行会社の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込むことがありますので、投資に関する最終決定は、お客さまご自身の判断でなされるようお願い致します。この資料の著作権は東洋証券株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようにお願い致します。