見通しが不透明な今の時代に、生涯給料を高めるにはどのような視点を持つべきなのか――。人材サービス大手エン・ジャパン 中途採用支援事業部・副事業部長の菊池篤也氏に話を聞いた。
近い将来、予想される景気変動と企業の採用動向
不安定な世界情勢、国内も株価の低迷、消費税増税、年金問題など、将来への不安材料は少なくない。
エン・ジャパンの人材紹介事業「エン エージェント」を率いる菊池篤也氏は、「景気のサイクルが落ち込みを見せそうなところを、金融緩和でしのいでいるのが今の状況。2020年の東京オリンピック開催まで、政府はこの状況を続けようとするでしょうが、景気がはじけたら、キャリア選択の幅はかなり狭くなる」と分析する。
2008年のリーマン・ショックの後には、あらゆる業界業種で求人が80%近く減ったという。
選択の幅を狭めない「キャリアセレクタビリティ」の考え方
エン・ジャパンでは、働く個人が幅広い選択肢の中から主体的にキャリアを選べる状態・能力を「キャリアセレクタビリティ」と呼び、年齢を経ても、環境や境遇が変わっても、キャリアセレクタビリティを持ち続けられることを重視している。
「スペシャリストとして専門性を磨きながらも“汎用性がある”状態を作らないと、将来、選択の幅を狭める可能性が高い」
汎用性があるとはどういう状態だろうか。菊池氏は、どんな人でもキャリアを
「知識」
「スキル」
「能力」
の3つの軸で棚卸しすることで、どの部分に汎用性があって、どんな分野・仕事に応用が利くのかを見いだすことができるという。
「『知識』軸であれば、例えば製薬会社に勤めた方の知識を要素分解すると、バイオベンチャーや食品会社で活かせるようなものが出るはず。『スキル』軸だと分かりやすいのが経理・人事・法務など管理部門系のスキル。簿記の資格があれば、業界に関わらず応用できる可能性が高い。そして『能力』は仕事の回し方。現状把握が強いのか、分析が得意なのか、実行力が強みなのか――どういう仕事の回し方をするのかを把握できれば、業界が違ってもいい」
生涯給料を高めるために絶対に外してはいけない視点
菊池氏は、 年齢が上がっても選択の幅を狭めないキャリアの積み方をすることが「生涯給料を高めることになる」 と断言する。
業界が縮小して居場所がなくなったり、法令で業界の風向きが変わったりすることはある。だがもし可能性の選択肢が幅広ければ、一時的に金額は下がっても、継続して収入を得られる。
菊池氏は「転職で急に年収が上がるケースもあるでしょうが、長い目で見てそれが本当にプラスか考えたほうがいい」と指摘した、「逆に、転職時に年収が下がったとしても、キャリアセレクタビリティを維持向上できる転職なら減少分は『投資』と考えられる」と提案する。
キャリアコンサルの価値は「理想の転職の実現」ではない
エン エージェントがサポートするのは、20~30代の若手ビジネスパーソンが中心。相談に来る人全員に対し、面談前に独自の性格特性テストを課している。面談の最初にアンケートに答えてもらい、考え方や特異な仕事の回し方を確認する。
「一次面接後も求職者の方に聞き取りします。どんな話をしたか、どう思ったか、どう答えたか、入りたいと思ったか。細かく聞き取り、徹底的に求職者の方に向き合うことで、その方のキャリア上の課題を見つけ、解決を図ります」
35歳以下の人が求人を提示された時、「年収が高くなる」「残業が減る」といった転職時点でのメリットは分かっても、 汎用性のあるキャリアを築けるか、将来的に選択の幅を狭めない転職になるかを判断することは難しい という。
「コンサルタントの価値は、『理想の転職』を実現することではありません。聞けば様々な希望条件が出てくるでしょうが、その希望がかなえば幸せとは限りません。本当の意味で居心地がいいと感じられる環境をイメージし、長く活躍し続けられるようなキャリア選択を提案することが使命です」