教えを乞う者に惜しみなく助言を与えることから、尊敬の念を込めて「オマハの賢人」と呼ばれる米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット最高経営責任者(CEO)兼会長。投資の神様と崇められ、神格化されている。

生まれ故郷の米中西部ネブラスカ州オマハで開かれる毎年恒例のバークシャー・ハサウェイ株主総会は、毎年恒例の米ロックの大祭典ウッドストック・フェスティバルに例えられて、「投資家のウッドストック」と呼ばている。最近では約4万人の人たちが世界中からオマハに集まり、降臨したバフェット氏の「お告げ」に耳を傾ける。今年からは、ネット中継もされるようになった。

また、株主総会に合わせて、丹精込めて書き上げる「株主への書簡」は、全世界のメディアの注目を集め、その内容が精査されて報道される。今年の手紙には、バフェット氏の米経済への揺るぎない信頼と楽観的な見解がつづられており、最近の市場の乱高下で意気消沈する投資家の心を打った。

過去の「株主への書簡」は、まとめられて本として出版されているほか、今年2月にはオークションサイトのeBay で、1980年の希少な「株主への書簡」が売りに出され、2000ドル以上の値がついた。

なぜバフェット氏は、ここまで尊敬され、注目されるのだろうか。バークシャー・ハサウェイのA種株式の価格は1965年に一株当たりたった19ドルだったが、今やなんと全米一の20万7千ドルだ。純収益は2013年の1820億ドルから、2014年には6.5%も上昇して1940億ドルとなった。その驚くべき成功と安定性の秘訣を知りたいという、投資家の願望もあろう。

だが、彼が「神様」の地位に祭り上げられた本当の理由は、毎年の「バフェットの手紙」から読み取れるような、不確実性の時代に安心と満足を与える理想的な株主と企業の関係性のあり方が、バークシャー・ハサウェイの株主の心を動かすからだ。バフェット氏にとっての「企業」は、単に配当で株主の資産価値の増大を手伝う機械的な存在ではない。

最近の株主への書簡では、こう語っている。

「零細企業の株を安値で買うことは短期投資としては魅力的かも知れないが、それを土台にして大きなビジネスをすることはできない。デート相手の条件と結婚相手の条件は違う。長期的に投資する先(つまり結婚相手)を見つけるためには、まともな企業を素晴らしい安値で買おうとするよりも、素晴らしい企業をまともな価格で買うほうがいい」。

これぞ「神対応」だ。企業の経済活動が一般人の生活と乖離してしまい、数字と効率性のみを追求する別世界の領域に深入りするなか、バフェット氏は株主の投資活動に社会的意味を与えるのである。

それでいて、株主には極めて満足なリターンを与える。心の救いと、金銭的救いを両立させて与える、慈父のような「父なる神」なのだ。

バフェット氏の投資手法のウリは、尊敬できる企業の優良株を長期的視野で保有し続けることだ。だから、IT企業など、将来が見通せない企業の株式は取得しない。(バークシャー・ハサウェイが大量保有するIBMは例外である)また、外国株にも手を出さず、米国企業にのみ投資する愛国的資産運用を心掛ける。

今では「何でもあり」になり、「もうかれば、自国企業でも外国企業でも構わない」という考えが支配するようになった投資環境において、珍しくなった堅実さが、さらに株主との関係を強固なものにするのである。

彼は、株主への手紙で、こう説く。

「法外な価格で株式を発行し続ける企業は富を生み出さない。結局、魔法は解けて、すべてはシンデレラの馬車のようにカボチャとネズミに戻る。結末はいつも同じで、おカネが騙されやすい人から詐欺師へと移動するだけだ」。

また、資産9兆円といわれながら質素な生活を変えず、自宅は60年前のままというバフェット氏は株主総会で、「人生で大事なのは何か」という、議事とはおよそ関係のない質問を受けることがある。普通の企業の株主総会なら、無視されるか、かわされてしまうだろう。だがオマハの賢人は、気にかけることなく、丁寧に答える。

「頭がよいということ以上に、信頼に値する人であることが、人生には大切だ。知能指数が高くても、バカげたことをする人たちにたくさん会ってきたからね」。

また、株主への手紙で、こうも助言している。

「私は多くの人が酒とレバレッジで失敗するのを見てきた。借金でてこ入れするレバレッジだ。そうまでする必要などどこにもない。賢明でありさえすれば、借金などせずに、大金を手にすることはできるはずだ」。

「あなたが誤った判断により投資で損をした場合、私は共感し同情する。しかし、あなたがその投資であなた自身の評判を落としたなら、私は冷たく突き放す」。

投資というより、慰めと希望と叱咤激励を与える、人生そのものの指針のようである。これが、単なる配当だけではない、株主と企業の関係のあるべき姿なのかもしれない。

ただ、「神」とされるバフェット氏にも神と違うところがある。85歳の高齢であり、その死後に後継者が「バフェットの手紙」に体現された価値観や、株主と企業の関係性を継続させていくことができるか、という問題があるのだ。こうした疑問に関して、バフェット氏自身はこうも言っている。

「投資家は、過去に基づくいかなるモデルも疑うべきだ」。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)