日銀短観,デフレ
(写真=PIXTA)

1-3月期の日銀短観大企業製造業業況判断DIは+6と、コンセンサス(+8程度)を若干下回る結果となった。10-12月期の+12から悪化した。電気機械、自動車、鉄鋼などの輸出セクターが大きめの悪化となった。昨年からの中国経済の低迷とその影響を受けた新興国向けを中心に輸出が弱く、生産活動が鈍っていることが理由である。年初からグローバルな景気・マーケットの不安定感と不透明感が増し、円高が進行してしまったことが企業心理の悪化に拍車を掛けたようだ。既に、2016年度の大企業製造業の想定レートである1ドル117.5円を上回る円高となり、収益計画にも影響が出始めているとみられる。

米国、追加緩和はまだ先か

一方、米国経済は堅調な動きを見せている。輸出と生産は弱いが、横ばい圏内の動きで底割れているわけではない。円高が進行したとは言え、アベノミクスが始まる前の2012年の80円程度と比較すると、現状でも大幅な円安水準であることに変わりはない。原油価格が大幅に下落したことにより、鉱物性燃料輸入はピークであった2014年の27.7兆円から、2015年には18.2兆円まで大きく減少した。その他の商品市況の下落を含めた極めて大きな負担減が企業収益を支えている。そしてこれまでのリストラ・構造改革により、売上高・経常利益率が過去最高水準になっており、収益構造は強い。業況判断DIはプラス領域にとどまっている。1月の日銀の追加金融緩和は「リスクの健全化を未然に防ぐ」ことが目的でフォワードルッキングに行われたものであり、この業況判断の悪化への政策対応は済んでいると考えられる。まだ年内の追加金融緩和の確率は30%程度とみるが、業況判断DIがマイナスとなれば、追加金融緩和がメインシナリオになる可能性がある。しかし、先行きDIも+3とプラスを維持していおり、まだ追加金融緩和がメインシナリオではない理由だ。

1-3月期の大企業非製造業業況判断DIも+22と、10-12月期の+25から若干悪化した。2014年4月の拙速な消費税率引き上げの景気・物価下押し圧力は政府・日銀の想定を上回る強さであった。更に、2017年4月の更なる引き上げを控えていることが消費者心理を下押しているようだ。暖冬による冬物商戦の不振の影響も出ている。一方、失業率が自然失業率とみられる3.5%を明確に下回り、労働需給はかなりタイトになっている。総賃金は既に前年比+1.5%程度の拡大となっており、アベノミクス前の0%以下とは大きな違いが出てきている。更に、ここ数年で、人民元が円に対して50%以上切り上がったインパクトは引き続き大きく、中国からの来日客の増加は続いている。政府の観光促進の成果は出ており、来日観光客の増加とそのインバウンド消費が非製造業の業況を明確に支えている。ただ、今回は小売や宿泊・飲食サービスなども悪化してしまっている。1-3月期の大企業非製造業の業況判断DIは悪化はしたが、駆け込み需要があった2014年1-3月期の+24とほぼ同じで、まだ高水準である。日銀が導入したマイナス金利付き量的質的金融緩和の影響などにより、建設・不動産が改善していることが支えとなっている。消費税率再引き上げが延期されない限り、大企業非製造業の業況の重苦しさは残るため、先行きDIは+17へと悪化が予想されている。

マイナス金利政策の評価は定まらず

今回、業況判断DI以上に注目なのは、内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。日銀が導入したマイナス金利付き量的質的金融緩和の評価が定まっていない。金融機関は日銀当座預金の残高にマイナス金利が付されるため、より貸出や投資に積極的になり、景気刺激効果と円安効果があるというのが日銀の目論見である。一方で、マイナス金利は日銀当座預金残高からの収入の減少や貸出利鞘の縮小を意味するため、金融機関の財務悪化が貸出や投資を消極的にしてしまう悪影響があるという指摘もある。実際に、そのような懸念が金融機関の株価に下押し圧力をかけたことも事実だ。前者であれば日銀の勝ち、後者であれば日銀の負けとなる。

それを決するのは、企業が金融機関の貸出態度が緩和したとみるのか、引き締まってしまったとみるのかである。その結果は、日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIに表れることになる。1-3月期のDIは+20と、10-12月期の+17から大き目の上昇となった。この改善が、建設・不動産セクターを支えているとみられる。景気・マーケットが持続的に好転をしていくための国内の必要条件は、総賃金が拡大し、内需拡大・デフレ脱却への動きの実感が生まれることである。このDIは、失業率に半年から1年きれいに先行する指標となっている。DIが上昇すれば、賃金インフレから物価上昇の加速というシナリオが継続していることが確認される。一方、DIが低下すれば、そのシナリオが大きなリスクにさらされていることを示す。このDIが上昇していることが確認され、ひとまずは日銀の勝ちで、デフレ完全脱却への動きがまだ進行していると判断できる。

この短観から2016年度の設備投資計画が公表された。2016年度の大企業全産業設備投資計画は前年比-0.9%となった。2015年度の同-1.2%と同程度のスタートとなった。短観のクセとして、設備投資計画は最初控えめにスタートし、その後上方修正される。5.6ポイント程度の下方バイアスがあるため、季節性を除去すれば、2016年度は同+4.7%の堅調なスタートとなる。2015年度の大企業全産業の設備投資計画は前年比+9.8%(+10.8%から下方修正)とまだ強いが、グローバルな景気・マーケットの不安定感と不透明感により、多くの部分が2016年度に先送りされ、今後、2016年度の計画を押し上げる要因となるだろう。しかし、大企業全産業の経常利益計画は前年比-2.0%のマイナススタートとなっている(2015年度は+0.6%スタートで、現在は+3.9%)。グローバルな景気・マーケットの不透明感が和らいでいき、収益見通しがどれほど早く改善するのかが設備投資計画の押し上げのペースを左右すると考えられる。

サミット前の景気刺激策に注目

全規模全産業の雇用判断DIは1-3月期に-18(マイナス=不足)と、10-12月期の-19からは若干悪化したが、1992年4-6月期と同水準となり、雇用不足感が強くなっている。4-6月期には-20まで改善することが予想されている。企業の雇用不足感は深刻だ。企業経営者は、名目GDP、即ちビジネス規模が縮小する環境、そして少子高齢化の暗い見通しもあり、設備投資に慎重であった。しかし、深刻な雇用不足感は、人件費の抑制と、資本を潤沢に積み増し労働生産性を上昇させる省力化への対策を企業に迫っている。企業の雇用不足感に対する対策、即ちIT、ロボティックス、生産・サービス設備への投資は既に動き始めていると考えられる。失業率は2年以内に3%を明確に下回り、労働者の取り合いが始まるリスクが出てくるだろう。更に、2020年の東京オリンピックに向けた業務の刷新の心理も働くだろう。この先数年にわたり、設備投資は成長を支えドライバーになると考える。

5月のサミット前後で公表され、秋までに実施されるとみられる財政による大規模(5兆円以上の可能性が高い)の景気刺激策にも、企業の設備投資やR&Dを促進させる大きな予算がつけられると考える。安倍首相は、5月の日本でのG7とサミットで、2020年度の東京オリンピックまでは需要拡大と経済再生に最大限注力することを約束し、議長国として需要創出のリーダーシップを果たそうとするだろう。名目600兆円に向けた動きには、企業の投資活動は急務であり、安倍首相は成長戦略と構造改革の推進を促進するような積極的な財政出動の余地を、消費税率再引き上げの見送りを含め、探っているようにみえる。既に、経済対策の策定を見越して、2016年度の予算の前倒し執行により景気を支えることが指示されている。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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