「米国の景気を示す重要指標の雇用統計によると、3月の就業者数は21万5000人増加し、過去半年で最も力強く伸びた。これは、エイプリルフールではない」 米CBSニュース系の経済ニュースサイト「ニュースウォッチ」は米国時間の4月1日、先月の雇用統計が堅調だったことに対する市場の受け止め方を、興奮気味に伝えた。

同日のニューヨーク株式市場は、農業分野以外の就業者数が市場の予想である20万人をやや上回って増加したことなどを受け、買い注文が広範に入り、ダウ平均株価の終値は前日比107ドル66セント高の1万7792ドル75セントをつけた。

失業率が悪化するも「労働参加率の改善スピード」に注目

今回の数字で米エコノミストが特に注目したのは、失業して長く職探しをあきらめていた人たちが、労働市場に戻りつつあることを示す労働参加率の回復だ。米キャピタル・エコノミクスのポール・アッシュワース氏は、「労働参加率は昨年9月に記録した低レベルの62.4%から、今年3月には2014年3月以来で最高の63.0%にまで回復した。改善のスピード、大きさともに特筆すべき回復だ」と述べ、心強い兆候だと絶賛する。

一方、米経済の現状を示すされる失業率は、前月より0.1ポイント上昇して5.0%となり、僅かに悪化した。この数字は、市場予想の4.9%より幾分悪かった。また、より広義の失業を示すU-6失業率も9.8%と、約7年半ぶりの低水準となっていた先月の9.7%から、若干悪化している。

米銀行業界の金利分析を手掛けるバンクレートのマーク・ハムリック氏は、「一見すると、失業率が5.0%に上昇したことは悪い知らせに思えるかもしれない。だが同時に、労働参加率が大きく改善したことを見れば、より多くの人が仕事を探し、実際に見つけている。したがって、全体的には好ましい」との見方を示した。

一方で「賃金上昇率は、理想とは程遠い」

だが、労働市場の回復の質は、まだ不満足だとの声が多い。英金融大手バークレイズの米子会社のロブ・マーティン氏などは、こう指摘する。「全体的な労働市場の傾向は、変わっていない。(一般的に低賃金の)サービス分野の仕事が増加を続ける一方、(一般的に高賃金の)製造業はふるわない。これは、海外の低成長の影響を受けている部分が大きい」。

具体的に、3月の就業者数で伸びが大きかったのは、小売分野の4万8000人増加を筆頭に、建設・医療・介護・外食などだ。逆に、製造業では就業者数が2万9000人も減少した。2015年3月以来、 耐久財製造の分野では6万8000人分の仕事が失われている。バイデン副大統領の経済顧問を務めたジャレッド・バーンスタイン氏は、「強含む米ドルが製造業の雇用を抑制している」と分析。また、「こうした雇用拡大の実を労働者が実感するには、賃金上昇が加速しなければならない」とした。

3月の時間当たり賃金は今年前月比0.3%上昇している。だが、エコノミストたちによると、インフレ率が米連邦準備理事会(FRB)の目標である2%に達するには、時間当たり賃金が3.0~3.5%も伸びる必要がある。米国進歩センターのエコノミスト、マイケル・マドウィッツ氏は、「賃金上昇率は、理想とは程遠い」と嘆いた。依然として時間当たり賃金の成長率が、必要とされる値と一桁違うため、道のりは険しいといえよう。

緩やかな利上げ路線に追い風

米労働市場の改善は牛歩だが、FRBの「ゆっくり利上げ路線」にとっては、おあつらえ向きのペースだとする意見が多い。米JPモルガン・チェース銀行のチーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は、「3月の統計は、イエレンFRB議長を賢く見せる効果があった」とする。

同氏は、「先月の数字は米労働市場に依然、たるみがることを示すもので、(最近のハト派発言で市場を喜ばせた)イエレン議長の緩やかな利上げ方針に合致する」と言明した。米金融分析のムーディーズ・アナリティックスの上席エコノミスト、ライアン・スイート氏も、「FRBは慎重な利上げ路線を崩さないだろう」と予想する。

こうしたなか、具体的な次回利上げのタイミングについて、米ネーションワイド保険のチーフエコノミスト、デイビッド・ベンソン氏は、「FRBはたぶん6月の利上げに動くだろう」との予測を発表した。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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