世界的規模で次世代車を巡る主導権争いが激しくなっている。最終的に生き残るのはどこか? 興味は尽きないところであるが、次世代車であるEV(電気自動車)やFCV(燃料電池者)の開発競争は、世界の自動車産業の勢力図を塗りかえるだけでなく、資源価格にも大きな影響を及ぼす。具体的にみてみよう。

次世代車の普及で最も注目される資源はプラチナ

次世代車の普及により影響を受ける資源として、まずは石油が挙げられる。ガソリンを使わなくなるわけだから、影響は甚大といえる。エコカーの普及でガソリンの消費が減り、石油価格も下落することになるだろう。とはいえ、ここ2年で原油価格が急落しており、その影響でエコカーの普及が遅れるとの見方もある。また、石油価格はOPEC(石油輸出国機構)など生産国の動向にも左右される。こうした状況を踏まえると、エコカーの普及はマイナスに作用するとはいえるものの、石油価格が「下がり続ける」わけではなさそうだ。

次に大きな影響を受けそうなのがプラチナとパラジウムである。ともにガソリン自動車から排出される窒素酸化物や炭化水素といった有害物質を取り除くための排ガス触媒に利用されている。通常、触媒にはどちらも使用されるが、用途や価格動向によりその比率が異なる。たとえば、ディーゼル車向けの触媒にはパラジウムは不向きなことから、ほとんどがプラチナとなる。

また、プラチナはパラジウムに比べ高価なことから、プラチナの価格が高騰するとコストを削減するためにパラジウムへの代替が進むといわれている。ただし、特性が違うことから、主に取り除かれる物質も異なっており、完全に代替できるわけではなく、コストをにらみながら比率を調整しているようだ。また、北米ではパラジウム、日本ではプラチナが相対的に多く利用される傾向がある。

EVとFCV、どちらが普及するかでトレンドも変わる

自動車用触媒はプラチナの需要の約4割、パラジウムの約8割を占めており、仮にすべての自動車がEVとなった場合、この需要がすっぽりと抜け落ちることになる。しがたってEVの普及が進むとプラチナ・パラジウムの価格は大きな打撃を受けそうだ。

一方、FCVはガソリン車に比べ、大量のプラチナを消費する。プラチナの使用量はガソリン車1台当たり3〜7グラム程度、FCVでは30〜50グラム程度といわれており、ざっと5倍から10倍の消費量となる。燃料電池の電極用の触媒には主にプラチナが用いられているが、パラジウムも利用できる。また、パラジウムは水素吸蔵合金にも利用されており、自身の体積の約1000倍の水素を吸収できるといわれている。水素の運搬・貯蔵においてもパラジウムは重要な役割を担っている。

従って、プラチナやパラジウムは生産量が少ないこともあり、FCVの普及が進んだ場合、供給が需要に追いつかず、価格が急騰する可能性も指摘されている。ただし、炭素を主成分とする電極用触媒の研究も進んでおり、価格はプラチナの10分の1程度まで低下できる見通しだ。電極用触媒として必ずしもプラチナが利用されるとは限らないことは気に留めておく必要がある。

リチウムやレアアースへの影響も

EVにはリチウムイオン電池が搭載されており、コストの半分がバッテリーといわれている。
リチウムイオン電池は主に携帯電話やパソコンに利用されており、これらの普及に伴ってリチウムの需要も増加傾向にある。EVが普及した場合には、需要の増加が加速するとみられている。また、マイナーではあるが、EVのモーターに利用されるネオジウムなどのレアアース(希土類)の需要増加も見込まれる。

影響を受けやすい国は南アフリカとロシア

最後にエコカーの普及による資源国経済への影響をみると、まずガソリンなど化石燃料への需要が低下することで原油価格が圧迫され、中東をはじめとする世界の産油国が大きな打撃を受けそうだ。なかでも、中東ではサウジアラビア、非OPEC(石油輸出国機構)ではロシア、南米ではベネズエラ、アフリカではナイジェリアといった国での財政悪化が懸念されており、世界経済の波乱要因となる可能性もある。

プラチナとパラジウムの生産はロシアと南アフリカの2カ国でほぼ独占されている。プラチナは南アフリカが約7割強、ロシアが2割弱となり、9割近くをこの2カ国で占めている。また、パラジウムはロシアと南アフリカが約4割ずつを占め、この2国で約8割を占める。従って、プラチナやパラジウムの価格はロシアや南アフリカから輸出に少なからぬ影響を及ばすことになる。

特に、プラチナの南アフリカ経済への影響は大きく、プラチナ価格が大きく下落した場合には南アフリカ・ランドも連動して下落することがある。ロシアの場合、輸出の大半をエネルギーが占めていることから、南アフリカほど影響は大きくないものの、プラチナ・パラジウムの下落は通貨ルーブルの下げ要因となる。

EVが普及すると中国に追い風

その一方で、EVが急速に普及した場合は、自動車用のリチウムイオン電池の需要が増加することから南米のチリやアルゼンチン、オーストラリア、中国といったリチウムの主要生産地が恩恵を受ける。また、レアアースも需要の増加が見込まれることから、レアアースの輸出をほぼ独占している中国には追い風となる。最近レアアースの開発を進めているカナダやオーストラリアの通貨も上昇が見込まれる。(ZUU online 編集部)