日本,医療制度,特徴
(写真=PIXTA)

はじめに

日本では、高齢化が進み、社会保障制度、特に医療制度への関心が高まっている。日本は1961年に国民皆保険を達成し、誰でもどの病院にも自由に受診できるフリーアクセスが確立している。しかし、財政面や、サービス面で様々な問題も生じている。

高齢化は、先進国を中心に世界的に進みつつあり、各国で医療制度について議論され、改正が行われてきている。そこで、本稿では、各国の医療の現状を比較し、それを通じて、日本の医療制度の特徴を見てみることとしたい。

一般に、医療制度を評価する場合、クオリティー、コスト、アクセス、の3つの評価要素があると言われる。また、各要素を支える基盤となる医療資源は、医療スタッフ、医療施設、医療設備に分けて見ることができる。

なお、本稿は、各国の医療制度を詳細に分析することは、目的とはしない。医療の比較を通じて、日本の制度の特徴を、見ることを主眼に置く。

12種類の医療データで比較

一口に医療データと言っても、様々なものがある。本稿では、医療制度の3つの評価要素や、医療資源の要素として、全部で12種類の統計指標について、データを比較する。なお、比較には、各国のデータをまとめた、OECD Health Statistics 2015を用いる。

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医療制度の比較

1|日本は、平均寿命などが優れており、医療の質は世界トップクラス

まず平均寿命を見てみよう。日本は女性で世界トップとなっている。男性でもトップ層に位置する。ヨーロッパ主要国では、女性はスペイン、男性はスイスの平均寿命が長い。アメリカの平均寿命は、相対的に短い。

次に、乳児死亡率を比較する。日本は、低い水準にある。ヨーロッパ主要国では、スペインやスウェーデンが低い。アメリカは、相対的に高い。

2|日本の医療費は、高齢化に伴って、主要国の中位程度まで増加

まず、国内総生産(GDP)に対する医療費の割合を見てみる。2004年には、日本の医療費割合は低かったが、直近では主要国の中位程度まで増加している。アメリカは、医療費の割合が高い。これは、市場主義に基づく医療費の制御が、うまく機能していないことを表している。ドイツやフランスも医療費の割合が高く、その増大に悩まされてきた。

逆に、イギリス、イタリア、スペインは、低い。イギリスは、伝統的に、医療に大きなコストをかけてこなかった。しかし、その結果、患者が専門医に受診するまでに数ヵ月間も待たされる、医療の待機問題を生んでいる。

次に、1人あたり医療費を見てみよう。ここでも、アメリカの突出ぶりが目に付く。2004年には、日本は低かったが、直近ではイギリス、イタリアを上回り、フランスに迫っている。オランダ、スイス、スウェーデンでは、大きな伸びを見せている。これらの国では、日本と同様、高齢化に伴う医療費の増加が進んでいることがうかがえる。

3|日本は、医療機関への受診が容易で、利用頻度が高い

続いて、1人あたり受診回数を見てみる。日本の受診回数は、主要国の中で最も多い。一方、ドイツは、受診回数が大きく増加している。これは、旧東ドイツ地域の医師不足を補うために、看護師や医療助手を患者の自宅に派遣する事業の推進など、都市・地方間の医療供給格差の是正に努めた結果によるものと考えられる。なお、アメリカの受診回数は、日本の3分の1程度と少ない。

最後に、入院患者の平均在院日数を見てみよう。主要国が数日であるのに対して、日本は30日以上と突出している。イギリス、デンマーク、スウェーデンでは、外来手術患者の早期回復を促すための取り組みの導入により、手術後の在院日数の短縮が図られている。在院日数の長さは、医療費の多寡に直結するため、その短縮に向けた検討や、取り組みが各国で進められている。

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