円高,サミット
(写真=PIXTA)

これまでのグローバル・デフレ懸念の中では、円安の動きをともない、日本のマーケットは相対的に堅調な動きをみせてきた。デフレ懸念が強くなる他国と比較し、アベノミクスによる政府・日銀のデフレ脱却への強いコミットメントにより日本はデフレ懸念が緩和し、方向性の違いがあったからだ。

円高懸念は引き続く

一方、グローバル・デフレ懸念が緩和している中では、逆に、円高の動きをともない、日本のマーケットは相対的に弱い動きをみせている。マーケット指標では、インフレ期待低下による米国の実質金利の上昇局面での日本の堅調さと、インフレ期待上昇による米国の実質金利低下局面での日本の弱さ、という形で表れる。

もちろん、米国の利上げが景気動向対比で大幅に遅れる期待が、実質金利を押し上げることも同様である。もともとデフレ圧力が強い日本は、グローバルにインフレ期待が上昇する局面では、その動きにおいて行かれ、実質金利の相対的な低下も小さく、円高に行ってしまう。

日銀の金融緩和の限界が意識され、名目金利のこれ以上の低下への期待が小さいので、更に円高の懸念が強くなっている。そうなると、グローバルなインフレ期待の上昇において行かれないように、需要を拡大する政策が必要となる。

サミット議長国としては追加緩和に慎重

5月のG7・サミットに向けて、政府は大規模な経済対策の準備を進めているとみられる。実際に経済対策が国会を通過するのは7月の参議院選挙後の臨時国会になるとみられ、まだ先である。しかし、それまでに経済対策を見越した2016年度の予算の前倒し執行と、景気失速回避を予想したインフレ期待の持ち直しが生まれるだろうから、効果は前倒しで生まれる可能性が高い。

通常、財政拡大は金利上昇を生み円高、財政緊縮は金利低下で円安と解釈される。

一方、名目金利が上がらないという現在の環境であれば、財政拡大はインフレ期待を持ち上げ、実質金利を低下させることと、支出の増加により市中に回るマネーの量が増え、金融緩和の効果を強くすると考えられるため、円安への動きとなる可能性が高いだろう。

5月のG7・サミットまでは、グローバルな需要拡大を先導しなければいけない議長国として、通貨安を目指していると誤解されかねない為替介入や追加的な金融緩和もしにくいため、円高の懸念は続くだろう。その後は、経済対策が大規模でしっかりとした内容のものが出てくるとともに、米国では景気持ち直しとともに利上げ再開が意識されるようになるため、円安の動きが再開すると考えられる。

言い換えれば、経済対策が小規模でマーケットを失望させるものであったり、利上げが再開できないほどの米国景気の弱さが続けば、円高が更に進行し、その円高はマーケットが限界を意識しているため日銀の追加金融緩和では止められず、アベノミクスは死んでしまうリスクとなろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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