あなたは、自分自身でリスクを負わねばならない。銀行員に勧められるままに金融商品を購入するのではなく、自己責任のもとに金融リテラシーを高める努力を怠ってはならない。銀行の金融商品販売の現場にいる私は、常々そう考えている。そこで、気になるのが独立系FP(ファイナンシャルプランナー)の存在だ。金融機関に所属せず、公正な立場からのアドバイスを標榜している独立系FPの社会的責任は大きい。最近ではテレビやマネー誌に頻繁に多くの独立系FPが登場するようになり、存在感が高まっているが、果たしてその実力たるや……

独立系FPは本当に頼れる存在なのか

或る日、日本を代表する経済新聞に「高金利の仕組債には注意」という記事が掲載されていた。マイナス金利の影響で運用に困った投資家が仕組債に興味を持ち始めていることに対し、或るFPが警鐘を鳴らしているのだ。仕組債のような商品は仕組みが複雑であり、指数や株価が商品設計の上限になると早期償還される可能性がある。仕組債に投資する余力があるなら、ETF(上場投資信託)などのインデックス投信や個別銘柄の株式に直接投資することをお薦めするという内容だった。

私は失笑するよりほかなかった。いささか専門的な話になってしまうが、その仕組債はオプション取引でプットを売却しプレミアムを得ることで高い金利を得ている。投資対象の価格に「上昇が見込めず、かといって極端に暴落する可能性が低い」と投資家が自己責任のもとに判断すれば、有効な投資手段だ。一方、件のFPが推奨するインデックス投信や株式投資は相場や株価の上昇を期待するものである。両者にとって最適な環境は全く異なっているにもかかわらず同列に比較している点において、このFPの主張は問題がある。自衛隊の戦車とフェラーリのどちらが優れているかを比較するようなものだ。

国家資格である1級FP技能士の資格を有している私は、銀行に内緒でFP事務所で顧客から相談を受けていたことがある。大したお金にはならないが、独立系FPの「ナマの現場」を知る必要があったからだ。だが、その副業は長くは続かなかった。そこで学ぶモノは多くはないと感じたからだ。

複雑な金融商品を正確に理解し適切に助言できるか?

そもそもFPと言っても様々な種類の資格がある。国家資格の「FP技能士」、民間資格である「AFP、CFP」だ。「FP技能士」には3段階のレベルがあり、易しい順に3級、2級、1級となっている。「AFP、CFP」には2段階のレベルがあり、易しい順にAFP、CFPとなっている。それぞれの資格の難易度だが、2級FP技能士とAFP、1級FP技能士とCFPがほぼ同等の水準だ。こうして執筆しながらも、なんと複雑な仕組みなのだろうと改めて思う。これほど複雑にする意味があるのだろうか。

それはさておき、1級FP技能士やCFPの資格を有しているFPであっても、現在の複雑な金融商品を正確に理解し適切にアドバイスできるFPは非常に少ないと考えてよい。

たとえば、分配金を重視した投資信託について考えてみよう。FPの多くは過度に分配金に依存した投資はいかがなものかと判で押したように批判する。こうした投資信託のなかには、通貨や株のコールオプションを売却しプレミアムを得ることで分配金の原資としているものが多数存在する。そのデリバティブの仕組みを理解し、顧客に説明出来る能力を持った人はそう多くない。むしろ、そんな人はほとんどいない。件の仕組債についてもFPは正しくその内容を伝えていない。日本を代表する経済新聞ですらその内容に疑問を感じていないという点において大きな問題だ。

FP事務所に所属している間、私は重宝された。こうした複雑な金融商品を正確に説明出来るFPなどいなかったからだ。住宅ローン金利の仕組みやその決定要因ですら怪しい知識しか持っていないFPはたくさんいた。すべてのFPが必ずしもそうではないだろうが、少なくとも私はそこで学ぶべきモノはなかった。

金融機関で金融商品を販売している担当者もほとんどはFPの資格を取得している。さらに、証券外務員の資格も併せて取得することがごく一般的であり、知識と情報量、そして実務経験という点では独立系FPよりもはるかに勝っている点は多いと感じる。もちろん、それが顧客利益に結びつくかどうかは別の問題だが。

スケープゴートを探し「大合唱」する独立系FP

金融機関で働いているFPが独立系FPに勝るのは実務経験と情報力だ。それをカバーするために独立系FPはセミナーや業界誌などで情報収集に努めている。それが原因なのだろうか。彼らの主張には偏りがある。

投資信託の分配金が批判されるようになると誰もが「一斉に同じ批判」を行う。ドルコスト平均法による積立投資のメリットが紹介されるや「一斉に同じこと」を言い出す。最近ではマイナス金利政策の影響で銀行預金の金利が引き下げられ、「ネット銀行の金利は大手銀行の何10倍も高い」ということを「大合唱」するようになった。その光景は異様にさえ感じられる。

ちなみに、大手銀行の普通預金金利は0.001%、ネット銀行の定期預金には0.200%のものもある。確かに200倍もの金利がつく。決してウソでは無いが、仮に100万円の預金なら銀行の普通預金の利息は年間10円(税金は考慮せず)。ネット銀行の定期預金は2000円。しかし、銀行の預金口座は税金や公共料金、学費の決済口座として利用できるし、給与振込や年金の振り込みなど総合的な利便性を考えると、銀行預金がそれほど悪い商品であるとは思えない。利便性とわずかな利息を天秤にかけるなら、私は利便性を選択する。

要するに彼らの多くは応用が利かないのだ。減点主義の組織で周りに合わせることしか知らない銀行員と本質的に変わらない。彼らは独立系FPの最大のアドバンテージである「独立」の意味を理解していないようにさえ感じられる。

たとえば、良心的な独立系FPであれば、銀行を利用した際のコストをいかに安くするかをアドバイスすべきではないか。給与振込や住宅ローン、公共料金の引き落としなど取引内容に応じATMの利用手数料や振込の手数料が減免されるサービスが多くの銀行で行われている。こうしたサービスの利用を促す方が預金者にとってはよほどメリットがあるのではなかろうか。

もちろん、なかには良心的な独立系FPもいるかも知れないが、私には彼らの主張がどうにも表面的で無意味に思えてならないのだ。

ノーベル賞経済学者だって知らないことがある

私は銀行という組織に属しながら、時には銀行の営業スタイルを批判することにある種の戸惑いを抱きながら執筆に取り組んでいる。しかし、当事者であるからこそ感じることもあるし、入手できる情報もある。どのような金融商品があり、実際のお客様の反応はどうなのか。現場ではどのような問題が発生しているのか。どんな著名なFPやノーベル賞経済学者にも勝っている私の優位性は「ナマの現場」を知っていることだ。

私は必ずしも銀行を貶めることが目的で批判を行っているわけではない。内部告発や内部情報を漏洩するつもりもないし、個人的な恨み辛みを晴らすことが目的でもない。

私の意見はちょっとひねくれているかも知れない。しかし、これまで金融機関の説明をマジメに聞いていたあなたが、ちょっとした疑問を感じるようになるだけで、あなたの投資が変わる可能性があるのだ。私は著名なFPや権威ある新聞記事を茶化すこともある。あなたが少しでも私の意見を面白いと感じてくれたなら、世の中は変わるかも知れない。もちろん、私の考えが絶対に正しいわけではない。それでも、おかしいと感じたことは言い続けなければならない。ノーベル賞経済学者だって知らない「現場のナマの声」を私は知っているのだから。(或る銀行員)