タクシー,値上げ
(写真=PIXTA)

東京都心部のタクシー初乗り距離・運賃が730円から400円台まで引き下げられる。「オトクになるなら乗ってもいいかな」と思えそうなものだが、実はお得な区間は意外に短い。

お得なのは2㎞まで、むしろそれ以上は割高になる?

業界大手の日本交通の場合、現状では初乗りが2kmで730円。2kmを超えると280mごとに90円加算される仕組みだ。いち早く申請を出した同社の案では、初乗りの距離を1.059kmに短縮し、運賃も410円に下げる。1.059kmを過ぎたら235.25mごとに80円ずつ上がる仕組みだ。

同社を含むタクシー各社の狙いは、1km程度しか乗らない利用者のハードルを下げたいというものだ。現行の料金体系で、1㎞乗っても730円かかるのなら、わざわざ乗らないという人は少なくないはずだ。実際、新料金体系になっても、2㎞でちょうど730円になる計算なので一見損はしないが、果たしてお得を実感できるのかは疑わしい。

というのも、タクシー利用者の多くが「5km」程度乗っているからだ。タクシー・ハイヤー協会が毎年行っている「タクシーに関するアンケート調査結果」によると、タクシー1回あたりの利用で最も多いのが約5kmで「1000~2000円」が38.5%。近距離利用の「730円以下」は4.8%にとどまる。利用距離13kmほど、運賃では「2000~5000円」で22.7%が2番目に利用が多い。比較的長い距離の移動にタクシーが利用されていることが分かる。

ここで、アンケートから需要が高いことが分かった5kmで単純計算してみよう。新料金はメーターが16回上がるので初乗り410円+80円×16回で1690円となる。

一方、現行料金はメーターが上がるのは10回。初乗り730円+90円×10回で1630円と、新案より60円安い。得になるのは2㎞まで、ということだ。

利用回数に目を転じると、「1~3回」が52.5%と半数を超え、「4~10回」と合わせると約85%の人が月に10回以下の利用であることが分かった。運賃水準については、「高いと思う」は全体の21%で、「まあまあと思う」の75%を大きく下回っている。

タクシーは「しかるべき時に乗る、ぜいたく品」と捉えている利用者が多いようだ。病院や空港など、ある程度の距離があり、公共の交通機関を使うのは二の足を踏んでしまう場面、駅から離れた場所を移動する場面などでの利用が多いのではないだろうか。

誰のためかと思えば、見据えるのはオリンピックか

関係者が短距離利用を促したいという背景には、外国人観光客や高齢者などが短い距離の移動にタクシーを使いやすくする狙いがあり、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全国に広がる可能性がある。

すでに国交省は過当競争防止のため、地域ごとに定めているタクシーの下限運賃を全国11地域で引き下げる方針を示している。タクシー業界内部でも「収益が減るのでは」との懸念が根強い新料金体系。短い距離にも対応するとなれば、利用者にとっては選択肢が増えるが、2㎞未満のタクシー利用需要がどれほどあるのか、見えていないのが現状だ。

これを測るため国交省はこの夏に都内で短距離タクシーの実証実験を行うことを決めているが、その料金体系は日本交通が申請したものとは異なる。「タクシーをより手軽に」というのは簡単なようで、その道のりは意外と長い。(ZUU online編集部)

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