マイナス金利,残高
(写真=PIXTA)

日銀当座預金残高のうち、2月16日から始まる積み期間に-0.1%のマイナス金利が適用される部分を、日銀は3.7兆円程度と想定していた。(A)この数字は、各金融機関が、まだ持っているマイナス金利が適用されない枠を、コール市場での取引により完全に融通し合った場合を前提としている。(公表されている2月の積み期間における当座預金残高から、プラス金利適用残高の上限値とゼロ金利適用残高の上限値を引いて計算。)

マイナス金利が適用されるのは日銀当座預金のたった7%弱

日銀当座預金残高には季節性もあるので、注意が必要だが、5月の積み期間における当座預金残高のマイナス金利が適用される残高を計算してみると以下のようになると予想できる。

2月の積み期間の実績の日銀当座預金残高は254.1兆円程度となっているため、3ヶ月間で当座預金残高は20兆円程度(B)増加すると考えた場合、5月の積み期間における当座預金残高は274.1兆円程度となる。

今回4月の積み期間から、MRFに対応する残高がマイナス金利適用から除外されるマクロ加算残高(金利0%)に入れられる。10兆円程度とみられるMRFの残高のうち、約半分程度(5兆円程度)がマクロ加算残高として処理されると仮定する。(C)

その他、マクロ加算残高として適用される貸出支援基金、被災地金融機関支援オペの残高約30兆円程度あり、これらの残高を増加させた金融機関は、増加額の2倍の金額をマクロ加算残高に加算できることが3月の政策決定会合で決まった。この半年で月額平均0.26兆円程度増加しているため、3ヶ月では0.8兆円程度の増加と見込まれるため、その2倍は1.6兆円程度となる。(D)

更に、2015年1月-12月の積み期間における当座預金の平均残高(基準平均残高220.2兆円程度)のマクロ加算残高の算出に用いる基準比率2.5%(3月の積み期間までは0%だった)である5.5兆円が新たにマクロ加算残高に含まれ、マイナス金利適用から除外される。(E)

金融機関の預金に対する所要準備額に相当する残高も、マクロ加算残高に入る。この額は、2015年の当座預金の平均残高220.2兆円程度のうちの8.9兆円程度となる。所要準備額の増加幅は3ヶ月で0.1兆円程度とみられる。(F)

+0.1%の金利適用となる基礎残高は、昨年の基準平均残高220.3兆円程度からゼロ金利が適用される所要準備額の8.9兆円程度を除いた211.4兆円程度となる。

マクロ加算残高の増加幅は、MRFの5兆円程度(C)、貸出支援オペからの1.6兆円程度(D)、基準比率からの5.5兆円程度(E)、そして所要準備からの0.1兆円程度(F)の合計で12.2兆円程度となろう。マクロ加算残高は、2月の39.4兆円程度にこの増加幅を加えた51.2兆円程度となろう。

従って、5月の積み期間の-0.1%のマイナス金利適用残高(政策金利残高)は、2月の積み期間の残高の3.7兆円程度(A)に当座預金残高の増加幅の20兆円程度(B)の合計である23.7兆円程度から、マクロ加算残高の増加幅(C+D+E+F)の12.2兆円程度を差し引いた11.5兆円程度と見込まれる。(A+B-C-D-E-F)

日銀はマイナス金利が適用される部分を10-30兆円程度と幅をもってみているが、この11.5兆円程度はその範囲に納まっている。2月の積み期間において、実際にマイナス金利が適用になった残高(実績)は、23.1兆円程度であった。

日銀が想定していた3.7兆円は、金融機関が完全に裁定取引を行うことを前提としている。

そのため、11.5兆円程度と試算されるマイナス金利適用額に関しても、10-30兆程度と日銀が想定している幅の下限に近い額となっているが、完全には裁定取引が行われないため、実績では2月と同程度の20兆円台に上振れる可能性が高いと考えられる。

5月の積み期間を考えると、コール市場での裁定取引が完全に行われれば、日銀当座預金残高が274.1兆円程度に対して、+0.1%のプラス金利が引き続き適用される基礎残高が211.4兆円程度、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高が51.2兆円程度、-0.1%のマイナス金利が適用される政策金利残高が11.5兆円程度となるとみられる。

実際には裁定取引が完全ではないため、マイナス金利が適用される政策金利残高は20兆円台となるだろうが、300兆円に近い日銀当座預金残高に対して、その部分は引き続きまだかなり小さい。

今後、マイナス金利適用残高は拡大か

マイナス金利政策によりイールドカーブ全般が低下したことを除いては、資金が日銀当座預金残高からマーケットに流出していく量の効果はまだ小さいとみられる。無担保コール翌日物はマイナス金利での取引となっており、この現状が続けば、日銀はこの10-30兆円程度が維持されるように、基準比率を調整していくことになろう。

もし無担保コール翌日物の金利がプラスになってしまうと考えれば、基準比率の上昇を抑制し、マイナス金利が適用される額を10-30兆円程度から増加させることになるだろう。

黒田日銀総裁はかねてからマイナス金利が適用される額は10-30兆円程度と指摘していた。

テクニカルには、マイナス金利が適用される額をさらに増加させ、無担保コール翌日物の金利のマイナス幅を拡大することにより、政策委員会の議決を得なくても、擬似的な追加金融緩和もできるシステムになっている。

無担保コール翌日物の金利のマイナスの幅は、まだ金融機関がマイナス金利が適用されない枠の融通に積極的ではないこと、そしてマイナス金利へのシステム対応が間に合っていないことなどにより、日銀当座預金残高のマイナス金利幅である0.1%より小さい。

日銀は、まだマイナス金利の効果が市場に浸透している最中であると考えているとみられる。もし円高のリスクが高まれば、その効果の浸透を早めるため、次回の6月9日の基準比率の見直しで、マイナス金利が適用される額を増加させるかもしれない。

このような擬似的な追加金融緩和のオプションを持っていることが、まだ2016年中の追加金融緩和の確率が30%程度で、まだメインシナリオではないと考える一つの理由である。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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