クルマ好きにとって自動車は大切な資産である。しかし、フェラーリやランボルギーニのような高級車であれば財産としての価値を感じることはあっても、一般的な自動車には資産としての価値を感じない人が多いかもしれない。

高級車でなくても自動車には必ず持ち主がいる。なかには残債務があって車検証の所有者の名義はローン会社やリース会社という人もいるであろうが、実質的な持ち主(使用者)は残債務のある本人である。自動車は価格に関係なく立派な財産になるという事なのだ。財産ということは万が一の時には相続が起きる相続財産のひとつになる。相続財産の一つである自動車には持ち主が亡くなった際に、相続人全員の共有財産となり相続手続きが必要になってくる。従って、相続財産である自動車を譲渡・廃車するには所有者の名義変更が必要なのである。

なかには所有者の名義を変更せずそのまま遺族が乗っているケースも少なくないだろう。しかし、その場合、①好きな時に換価処分が出来ない、②乗りつぶした際にも登録抹消や解体処分が待っている、③時間の経過によって取得できたはずの書類が取得できず手続きに手間がかかってしまう……など問題がさらに複雑化して面倒なことにもなりかねない。後々後悔しないためにも迅速な所有者の名義変更を心がけよう。

自動車の相続にはどんな手続きが必要か?

相続において、自動車の名義変更に必要な書類は以下の通りである。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 発行から3カ月以内の相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書
  • 新所有者の住民票
  • 有効期限の切れていない自動車検査証(車検証)
  • 発行から40日以内の自動車保管場所証明書(車庫証明書)

さらに申請日当日に陸運局で準備する書類は以下の通りである。

  • 陸運支局または自動車検査登録事務所で購入する申請書(OCRシート1号)
  • 陸運支局または自動車検査登録事務所でもらえる手数料納付書(500円の自動車検査登録印 紙を貼る)
  • 自動車税事務所でもらえる自動車税申告書

以上の書類だが、自動車の相続と同時にナンバープレートを変更する場合は自動車そのものを陸運支局に持ち込む必要がある。

ただし、車両価格が100万円以下の場合は、所有者の名義変更が簡便にできる場合がある。その際は遺産分割協議書ではなく「きちんと協議して私の名義にすることで合意しており役所には迷惑をかけません。何かあってもこちらで解決します」という意味合いの「遺産分割協議成立申立書」という専用の書式利用で済む。これを利用すると次の自動車の名義になる相続人の書類以外必要ないのだ。

また、100万円以下の車両価格であれば、1人の相続人で名義変更するのも可能だ。だが、後々のトラブルを避けるためには相続人全員の了承をとりつけておいたほうが賢明であろう。トラブルになれば自動車の価格に関係なく他の相続人に訴えられることもあるからだ。

さらに実際の使用者が被相続人であっても、所有者が自動車販売会社だったりすることもある。この場合は残債がなければ、販売会社は遺産分割に関与する必要がないため簡単に名義変更に必要な書類を発行してくれる。その際には、死亡除票や戸籍謄本などの被相続人の死亡を証明する書類や法定相続人であることの証明書類が必要になる。

自動車ローンが残っていたらどうすればいいのか?

では、相続時に残債務(オートローンやリース)があり、所有者の名義がファイナンス会社だった場合はどうなるのだろうか?

まずはファイナンス会社に債務者が亡くなったことを伝え、残債務がどのくらいあるかを確認し、残債務の返済方法を相談すると良い。基本残債務は「一括精算」であるが、今後自動車を遺族が使用したい場合などは、支払いを審査のうえ分割で引き継ぐことを認めることもある。ただし、これは新しい使用者との再契約という形になるので審査が必ずしも通るとは限らない。

また、一括返済ができない、ローンやリースが引き継げない、自動車はいらないとなると車両はファイナンス会社へ返却され換価処分される。この時に剰余金が生まれると、その金額をファイナンス会社から相続人に支払われるがそのようなケースは少ない。むしろ、逆に換価処分しても残債務が残るというケースが多い。残債務があればファイナンス会社は相続人に一括請求することになる。もし相続人に現金がなく支払えなければ、相続人は他の財産を手放して支払うか、相続を放棄せざるを得ないといったケースもでてくる。

自動車が相続のお荷物にならないために

日頃便利で必要な自動車が、相続時の負担にならないためにはどうしたら良いのだろうか? たとえば、自動車ローンを組んで購入したケースで、預貯金に一括返済する余裕がなければ、購入時に債務分の生命保険に加入するのも一つの手だろう。相続時には債務分を一括返済でき、自動車も遺族に残せる。

また、ある程度高齢になったら自動車をローンで購入しないという心がけも必要である。車両価格が贈与税に引っかからない程度であれば、所有者の名義を子供に変更してしまうのも良いだろう。

いずれにしても、自動車は相続財産のひとつであることをお忘れなく。

廣木智代 ファイナンシャルプランナー(CFP)
結婚後、家業のスナックで手伝いをしていたが母の引退と共に廃業。家計の苦しさを埋めるための我が家の保険の見直しをきっかけに、お金に賢くなるお手伝いをするべくCFP資格を取得。心と体とお金の健康バランスを軸に、個別相談、セミナー、執筆を展開中。 FP Cafe 登録FP。