次世代自動車の開発競争は、いまや世界中で国家プロジェクトレベルの主導権争いと化している。自動運転技術の分野ではカメラやセンサー、ブレーキ、レーダー、電子ミラー、画像処理半導体といったハードの他に、AIソフト、完全自動運転のための3Dダイナミックマップといったソフトなどの開発競争も激しさを増している。今回は、ダイナミックマップと画像処理技術に焦点を絞り、生き残りをかけた各社の動きを見てみよう。
キーとなるダイナミックマップと画像処理技術
政府は自動運転車の実現に向けたインフラの作成に官民を挙げて乗り出す方針だ。トヨタ <7203> や日産 <7201> などの大手自動車メーカーが大手地図メーカーと連携して、2018年までに自動運転に必要な共通のダイナミックマップを作る。メーカー間の競争によるコストを削減し、開発期間を短縮化する事で、自動運転への取り組みを支援する。
ダイナミックマップは、一般道での自動運転で障害物を確実に認識するため欠かせない技術だ。2次元の地図情報に加えて、構造物情報、交通管理情報、道路管理情報など3次元の情報を加えた高精度地図情報である。
自動運転では、道路上の自動車、歩行者といった移動体と信号機、標識,電柱,ガードレールといった構造物とを区別して認識することが求められる。画像センサー、ミリ波レーダー,レーザーレーダーといった複数のセンサーを用いて認識した移動体、構造物までの距離情報とダイナミックマップの地図情報を組み合わせることで、一般道での障害物等を認識していくことが可能だ。
画像処理半導体は、自動運転の目から得た画像情報をAIで処理し衝突回避、車線変更などを命じる自動運転の頭脳に当たる部分の半導体だ。リアルタイムに道路の状況を把握し、障害物を見つけて回避行動をとることが出来る。画像認識技術のポイントは、性能の高さと処理の軽さだ。
国際競争に臨むダイナミックマップ関連企業
2015年10月、内閣府は「自動走行システムの実現に向けた諸課題とその解決の方向性に関する調査・検討におけるダイナミックマップ構築に向けた試作・評価に係る調査検討」において、「ダイナミックマップ構築検討コンソーシアム」7社に調査検討事業を委託した。
その7社とは、三菱電機 <6503> 、アイサンテクノロジー <4667> 、インクリメントP(未上場)、ゼンリン <9474> 、トヨタマップマスター(未上場)、パスコ <9232> 、三菱総研 <3636> だ。
三菱総研は調査研究機関として、自動運転の調査をすでに何度も手掛けており、全体のコーディネーターの役割を担いそうだ。
三菱電機は、GPS衛星よりも精度の高い位置情報が得られる準天頂衛星を使った自動運転車を公開している。ダイナミックマップと合わせると、雪道や霧など、見通しの悪い状況でも、自動で走行ができるようになっている。
アイサンテクノロジーは、同社の測量・土木ソフト技術をベースに、名古屋大学などと共同で愛知県幸田町での自動運転の実証実験に乗り出した。今年1月から自動車を使った地図作製システムで同町の主要道路の計測を始めている。測定をもとに町全域の幹線道路を網羅するダイナミックマップを作製する。
インクリメントPはパイオニア <6773> 全額出資の子会社。カーナビ用などのデジタルマップを手掛ける会社だ。金沢大学と共同で、ダイナミックマップの開発を開始している。
地図メーカーのゼンリンは、自動運転用地図の体制強化のため、社長直轄のADAS事業推進室を新設した。経営判断を素早く反映できるようにして国や自動車メーカーとの連携を強化していく。
同じく地図メーカーのパスコ、トヨタマップマスターも、ダイナミックマップのプロジェクトに参加する。
トヨタマップマスターには、トヨタ、デンソー <6902> 、アイシン精機 <7259> グループのアイシンAW、パナソニック <6752> 、富士通 <6702> グループで自動車エレクトロニクス子会社の富士通テン、ゼンリンが出資している。
また、トヨタは米国で1月に開催された「2016 International CES」において、市販車に搭載しているカメラやGPSを活用してダイナミックマップを自動的に生成するシステムを発表した。カメラを装着した車両が走行中に収集した路面の画像データと位置情報をデータセンターのクラウドに集約し補正することで、自動的に広域の高精度地図データを作成できる。
画像処理関連も熱い
ルネサス・エレクトロニクス <6723> は車載向け半導体で実績ナンバーワン。自動運転時代のリアルタイム画像処理を可能にする内蔵SRAMを開発している。新たに開発した動画像処理回路は、車載カメラ向け動画像処理をスピーディに行い、膨大な動画像処理をCPUとGPUに負荷をかけることなく低消費電力で実現できる。
東芝 <6502> は、画像認識半導体として、カメラからの入力映像を画像処理して衝突回避システムに出力するシステムを開発しており、すでに搭載した車両が市場に投入されている。
ともあれ、安倍政権は2020年の東京五輪までに自動運転車の実用化を提唱している。株式市場でも、自動運転関連銘柄はFintech などとともに有力な市場のテーマとして益々注目を集めそうだ。(ZUU online 編集部)
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