2016年のG20では、金融政策の効果と手段の限界が意識されるとともに、財政拡大を含めた政策総動員で需要を拡大することで合意した。次の政策手段に対する期待が、金融政策よりも、財政政策に集まれば、為替に対するマーケットの反応は通貨高になりやすい。

通常、財政拡大は金利上昇を生み円高、財政緊縮は金利低下で円安と解釈されるからだ。5月の日本におけるG7・サミットでグローバルな需要拡大に対するリーダーシップを発揮するためもあり、政府は大規模な財政による経済対策の準備を進めているとみられる。

日本が財政拡大の先鞭をつけることがマーケットで意識されれば、米国の利上げが遅れていることと合わせて、円高が強くなってしまうことになる。

5月G7サミットまでは動きは取れず、円高続くか

しかし、この円高はオーバーシュートであると考える。

実際には、現在の日本のように日銀の大規模な金融緩和などにより名目金利が上がらないという環境であれば、財政拡大はインフレ期待を持ち上げ、実質金利を低下させることと、支出の増加により市中に回るマネーの量が増え、金融緩和の効果を強くすると考えられるため、円安への動きとなる可能性が高いだろう。内需が拡大すれば、貿易収支の黒字に対しても減少圧力であり、円高圧力は弱まるはずだ。

5月のG7・サミットまでは、通貨安を目指していると誤解されかねない為替介入や追加的な金融緩和もしにくく、財政拡大が円高要因であるというマーケットの誤解もあり、円高の懸念は続くだろう。その後は、財政による経済対策が大規模でしっかりとした内容のものが出てくるとともに、マーケットは実際には財政拡大が円安要因であることを意識し始め、米国では景気持ち直しとともに利上げが再開すると考えられる。

アベノミクス再始動は慎重さが求められる

現在の円高がオーバーシュートである反動で、その円安の動きはマーケットが想定するより大きくなるかもしれない。

株高をともない、アベノミクスが再始動したと認識されると考えられる。

言い換えれば、経済対策が小規模でマーケットを失望させるものであったり、利上げが再開できないほどの米国景気の弱さが続けば、円高が更に進行し、その円高はマーケットが限界を意識しているため日銀の追加金融緩和では止められず、デフレ完全脱却を目指すアベノミクスの試みは終焉してしまうリスクとなろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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