へリコプターマネー,アベノミクス
(写真=PIXTA)

財政支出の拡大のための国債発行を、中央銀行の金融緩和でまかなうことを、広義のヘリコプターマネーと呼ぶことができる。実際には、中央銀行が直接的に国債を引き受けること(狭義のヘリコプターマネー)はないため、市場を通した、間接的な資金供給となる。

へリコプターマネーはネット需要と日銀の資金供給のバランスで飛べる

間接的な資金供給という意味では、企業の資金需要の拡大に対して、金融緩和が行われた場合も、同様の形となる。日銀は、国債などの金融資産を買い入れて資金供給を行うだけであり、市中にマネーを直接的に配る力を持っていない。政府や企業が資金を調達し、支出を増やすことによって、市中のマネーが拡大することになる。

企業の資金需要の強さである企業貯蓄率(マイナス=資金需要が強い)と財政収支の合計が、国内のネットの資金需要となる。

ネットの資金需要は、企業と政府が支出をする力となる。このネットの資金需要を日銀が間接的にマネタイズすることにより、広義のヘリコプターマネーの形となり、市中のマネーが拡大する。言い換えれば、ヘリコプターマネーの力は、ネットの資金需要と日銀の資金供給(日銀当座預金残高の増加幅)の小さい方ということになる(ゼロが下限)。

日銀の資金供給がいかに大きくても、それを配るネットの資金需要が小さければ、ヘリコプターマネーの力は弱い。ネットの資金需要がいかに大きくても、日銀の資金供給が小さければ、ヘリコプターマネーの力は弱いことになる。

ネットの資金需要と日銀の資金供給の小さい方という定義でヘリコプターマネーの力を計ると、アベノミクス開始後、急激に強くなっていたことがわかる。

へリコプターマネーがデフレ脱却の鍵?

アベノミクス1.0として、ヘリコプターは飛んでいた。

それ以前は、日銀の資金供給が大きくてもネットの資金需要が消滅していたので、力はなかった。しかし、消費税率の引き上げを含む財政緊縮とグローバルな景気・マーケットの不安定化などによる企業貯蓄率のリバウンドにより、ネットの資金需要は消滅してしまい、現在はヘリコプターマネーの力も消滅してしまった。

5月の日本におけるG7・サミットでグローバルな需要拡大に対するリーダーシップを発揮するためもあり、政府は大規模な財政による経済対策の準備を進めているとみられる。財政が緊縮から拡大に転じること、そしてグローバルな景気・マーケットの安定化により企業貯蓄貯蓄率が再低下することにより、ネットの資金需要が復活し、ヘリコプターマネーの力も復活すると考えられる。

アベノミクス2.0として、ヘリコプターは再び飛ぶことになる。

そうなれば、マネーの拡大により、名目GDP拡大、円安、株価上昇、そして物価上昇をともない、デフレ完全脱却の動きも再開することになろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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