投資,仕組み債
(写真=Thinkstock/Getty Images)

時代劇にはしばしば悪代官が登場する。だが、それはテレビや映画の話だけではない。お上の権力を振りかざす悪代官は現代社会にも存在する。たとえば、地方公共団体だ。

銀行の金融商品販売に携わる私も、地方公共団体やその外郭団体から「運用の提案をして欲しい」という話が持ち込まれることがある。億単位の提案が出来るという点ではおいしい話だが、正直関わりたくないのが本音だ。金融緩和政策のおかげでマーケットに流通する国債はごっそり日銀がかっさらっていくので、まともな運用の提案など出来る状態ではないーー私も表向きはそれを理由にお断りすることが多い。だが、本当の理由は別にある。彼らこそ悪代官だからだ。決して我々善良な銀行員が近づいてはならない存在なのだ。私は声を大にして言いたい。「あんたら、銀行より悪だ!」

地方公共団体が「悪代官」と呼ばれる理由

兵庫県朝来市。早朝には古城山山頂に位置する竹田城址の石垣が霧の中に浮かぶ景色を眺めることができる。「天空の城」とも「日本のマチュピチュ」とも呼ばれすっかり有名になった。その朝来市は2006年5月、仕組み債での基金運用を始めた。最初は1億円の仕組み債を購入。08年8月までさらに買い増しを進めピーク時には指定金銭信託を含めその残高は83億円まで膨れ上がった。これら金融商品が市の基金に占める割合は07年11月には65%を超えていたのである。

リーマンショックが起こったのは、その直後のことだ。その基金は、円高の直撃を喰らうことになった。09年5月末には運用している資産の評価損が15億7000万円にのぼり、このままでは市の財政が破綻しかねない状況だった。

そこで、市は販売した金融機関4社に対し額面61億5000万円の仕組み債の買い取りを求めたのだ。最終的に市は評価損の大きい仕組み債を販売した2社を相手取り、当時の評価損4億8000万円の損害賠償を求め提訴した。ところが、アベノミクス効果で円安が進行したため、15億円の評価損は帳消しとなり、市は提訴を取り下げたのである。

実にお粗末な話だ。市は売り手である金融機関の説明が不十分であるとして損害賠償を請求したのだが、公金を取り扱っている自治体のリスク管理は一体どうなっているのだろうか。最終的に評価損が帳消しとなったことで責任問題は不明確なまま仕組み債は売却された。金融機関にも責任はあるだろうが、公金をリスクに晒す責任については棚上げされたままだ。我々の税金がこのような形でリスクにさらされていることを問題視する人はあまりに少ない。

学校法人、宗教法人のリスク管理も怪しい

他人から預かった資金を運用するという点においては、学校法人や宗教法人も同様だ。リーマンショック後、多くの学校法人で運用の失敗が明らかになり、経営の悪化につながった。宗教法人でも同様の問題が生じている。組織の内部抗争が絡み、泥沼と化すことも多い。

もし、あなたの愛する子供の通う学校が資金運用の失敗で存続できなくなってしまったらどうだろう。あなたが帰依するお寺が資金運用の失敗で巨額の損失を出しても、あなたの信仰心は変わらないだろうか。学校法人や宗教法人の資金運用について部外者が情報を入手することはきわめて困難だ。過去の進学実績を判断材料に学校を選ぶことは出来ても、経営の健全性を判断材料とすることは事実上不可能である。

私は多くの学校法人や宗教法人にも運用の提案を行っている。しかし、運用に対する意識の差は驚くほど大きい。さすがに、学校法人で資金を積極的に運用したいというニーズは限られている。「銀行さんとはお付き合いもあるのでお話だけは聞きますが、定期預金以外はダメですよ。証券会社さんは面談すらお断りしています」と、おっしゃる学校法人もある。数十億円の資金を定期預金のみで運用するその法人に対して仕事上では「もう少し柔軟に考えましょうよ」と言いつつ、学校法人の姿勢はこうあるべきだと心の底では敬服している。

その一方で非課税の資金をレバレッジをかけて積極的に運用する宗教法人も存在する。運用を提案するこちらの方が、バチが当たらないか不安になることすらある。

あなたが最も警戒すべき「悪代官」は?

本当の悪は表に現れること無くひっそりと隠れている。金融機関の販売方法を批難することは容易だ。わかりやすい敵を作り出すことで多くの人の賛同を得ることができる。しかし、本当の悪はそんなものじゃ無い。高齢者に対する金融機関の販売モラルがしばしば問題視される。そもそも、誰が高齢者にまで資産運用の必要性を説き危機感をあおっているかを冷静に考えて欲しい。この国の年金制度を破綻寸前にまで追い込んだのは誰だろう。金融機関の販売モラルを問い規制を強化することで我々の目を問題の本質から背けることにまんまと成功した者がいる。そして、誰も責任を取ろうとしない。

バラマキの放漫財政の果てに最悪の財政赤字国家と成り下がったにもかかわらず、国民の多くは「ギリシャと違ってこの国の国債の多くは国内で保有されているから健全なんだ」と胸を張る。本来あなたが受け取るべき利子は金融緩和政策で法外に低くなってしまったことになぜ怒らないのか。

金融機関に対し説明責任を求めるにもかかわらず、我々の年金が株式や外国債券などのリスク資産購入に何のためらいも無くつぎ込まれることに対して、なぜ説明責任を求めようとしないのだろう。あなたが安心しきっている連中こそ、実は最も警戒しなければならない「悪代官」なのだ。(或る銀行員)

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