最近、銀行、証券会社の富裕層向けビジネスの競争が激しくなっている。メガバンク系では三井住友銀行傘下のSMBC信託銀行が2015年11月2日、シティバンク銀行が日本で手掛けていた個人向け銀行事業を統合し、主に富裕層向けに「プレスティア」のブランド名で営業を始めたと発表した。

SMBC信託銀行が取得したのは72万人の顧客と2兆4300億円の預金。シティバンク銀行が強みにしていた外貨建て商品などを充実させ、富裕層向けビジネスを強化していく構えだ。海外200以上の国と地域で現金自動預払機(ATM)から現地通貨を引き出せるなど、シティバンク銀行がグローバルに提供してきたサービスを継続して使えこともできる。「プレスティア」を入り口に、グループ内の銀行、証券への顧客紹介なども狙いだとされている。

日本国内の富裕層は着実に増加中

SMBCによるシティバンク銀行の個人向け銀行事業の買収に限らず、富裕層向けサービス「プライベートバンク」の強化や、金融グループ内の銀行、証券、信託、保険のワンストップサービスの提供を目指すのがトレンドの様子だ。

金融各社が富裕層ビジネスに注力するのは、当たり前だが、利益率が高いから。かつては貧富の差は小さいと言われていた日本だが、近年、格差が拡大し、富裕層も確実に増加している。

少し古いデーターだが、野村総合研究所が2014年11月に発表した日本の富裕層に関するレポートによると、世帯合計で純金融資産5億円以上の超富裕層が5.4万世帯ある。また、1億円以上5億円未満の富裕層が95.3万世帯、5000万円以上1億円未満の準富裕層が315.2万世帯と、前回の調査と比べて確実に増えているという。

例えば、純金融資産5000万円以上の準富裕層以上の世帯が416万世帯なので、大まかに言って日本全国の約12世帯のうち1世帯が準富裕層以上だと言えるのだ。

また、フランスのコンサルティングファームであるCapgeminiの調査によると、日本における金融資産100万ドル以上の人数は、アメリカの435万人に次いで、世界第2位の245万人と発表されており、富裕層も比較的に分厚い。

富裕層が本当に求める提案とは?

富裕層は「資産を増やしたい」「万が一に備えて資金の準備をしておきたい」といったニーズは少ない一方で、「減らしたくない」という保守的な意向が大きくはたらくなど、工夫が求められる。

ますます複雑化していく、そのようなファイナンシャルプランニングのために的確なアドバイスをするサービスが「プライベートバンキング」であり、プライベートバンカーはその専門職だ。資産運用のみならず、税金、相続、不動産のことなど資産全体に関して俯瞰することができるエキスパートこそ、プライベートバンカーだと認められると言っていいだろう。

では、富裕層からはどのような提案が、プライベートバンカーに具体的に求められているのだろうか。

まず、さまざまな社会の動きに精通したアドバイスでなければならないと言えそうだ。例えば、相続・事業承継についてだが、2015年1月から相続税の基礎控除額が大幅に下がり、相続税・贈与税の最高税率も引き上げられた。一方で、自民党政権は、法人税を減税するといった方針を打ち出しており、法人で収入を受け取る方が、税金が低い可能性がある。

法人を上手く使う例として資産管理会社の設立が挙げられる。ファミリーの株式を集約することで、会社の株式の分散防止に繋がり、経営の安定に寄与するといったメリットがあることを踏まえなければならないと言えるだろう。

他にも、株式移転の際に自社株の価値を下げるための保険・リースなどさまざまな商品に精通している必要がある。

また、今後信託は富裕層の相続や事業承継には不可欠のスキームとなることが予想される。特に民事信託(一般的に家族信託ともいわれる)を使って、被相続人の身に何かある以前に資産を委託し、相続財産の不要な固定化を避ける、あるいは非上場株を受益権と議決権に分離して、次期経営者には議決権を集中させ受益権は相続人で均等に相続させるなど、それぞれの顧客のニーズに応じた仕組みができるのだ。

中長期の目線も必要な富裕層へのアドバイス

次に、金融商品についても、単純に案内するのではなく、顧客の資産全体を考えた上で、中長期目線での提案が求められる。アセットアロケーションやポートフォリオの概念は深く理解しなければならない。また株式や債券だけでなく、非伝統金融商品といわれるデリバティブやコモディティといったオルタナティブ分野に関する運用商品の知識も必要となる。

また、顧客に勧める金融商品について、しっかりと手数料を開示することが大切だ。特に投資信託は、販売時の手数料の他に、信託報酬がかかるなど、リターンから差し引かれる手数料を明確に説明し、顧客の手残りについて常に気を配る必要がある。

商品購入時に署名する目論見書に詳細が記載されているにも関わらず、投資家の多くは、自分がどういうものに手数料を支払っているのか、時間や労力をかけて理解しようとは、しない傾向にある。販売手数料や信託報酬等商品に埋め込まれた手数料を通じて、「顧客の資産や利益がアドバイザーに移転する」ことに気づく投資家はほとんどいないのが現状。敢えてそこを明確にすることによって顧客の信頼を勝ち得ることにつながる。

金融機関担当者が富裕層から本当に求められている助言は一般的なものではなく、エキスパートだからこそ、提供できるアドバイスだろう。(ZUU online 編集部)