ブレグジット,EU離脱,ポンド
(写真=Thinkstock/Getty Images)

英国のEU(欧州連合)離脱が現実味を帯びてきた。英国(Britain)がEUを離脱(exit)するという意味の造語「ブレグジット(Brexit)」が海外のニュースメディアで頻繁に報じられている。

これが現実となれば世界の政治・経済に大きな影響が及ぶ。英国がEU離脱を考えるに至った経緯とそれが起こる可能性、万が一そうなった場合の政治・経済および金融市場への影響など一連の流れをまとめておこう。

英国がEU離脱の可能性

ことの始まりは2013年1月に遡る。キャメロン首相が、その2年後の昨年5月の総選挙で第一党になったらEU残留か離脱かを問う国民投票を17年末までに実施すると約束したのである。

同国は1973年にEC(欧州共同体:EUの前身)に加盟、当時は「英国病」といわれる不景気の最中にあり、関税のない自由貿易を謳うECは魅力的だった。しかしその後、英国では金融ビッグバンを経て金融街シティ(ロンドン)が経済のけん引役となる一方、大陸欧州は08年のリーマンショックを契機に債務危機に陥り、数々の金融規制導入やギリシャ支援などに追われ、英国の負担が増していった。

さらに、人の行き来の自由を保証するEU規定により、英国には東欧圏などから多くの貧困層の移民が流入し、自国民の雇用を脅かすようになった。その結果、EU離脱を唱える勢力が急速に台頭、親EU路線を取るキャメロン首相率いる保守党の支持率は低迷した。

その打開策が国民投票実施の約束だった。15年の総選挙では、離脱派を懐柔するためのこの公約が効を奏し、保守党が大方の予想に反して単独過半数を獲得、国民投票を行うことが確定した。

英国にとってEU加盟は「足かせ」

同首相は今年2月半ばの欧州首脳会議で国内の離脱派をなだめるために加盟国の主権尊重や移民への福祉制限などの改革案をEU残留の条件として提示、妥協案を引き出した。しかし、それでは不十分とする離脱派は矛を収めず、国民の人気が高いロンドン市長を始め、閣僚6名が離脱支持を表明した。

英国民のブレグジットへの賛否を定期的に調査するYouGov社によると、昨年後半は残留派が多数を占めていたが、直近では離脱派が増え、ともにほぼ4割で拮抗している。昨年11月のパリ同時多発テロ事件では難民に紛れて実行犯が入国したとされ、難民流入に対する警戒感が強まっているようだ。

国民投票は6月23日に実施されることが既に決まっている。その結果次第では数年前には想像もつかなかった事態が現実のものになるとして、金融市場では不安が広がっている。2月下旬には貿易や投資などへの打撃が懸念され、通貨ポンドが7年ぶりの安値をつけ、英国債も売られた。

米シティグループ「ポンドは最大20%下落」

ブレグジットが現実味を帯びてきたことは米政府の動きからも伺える。今月20日には同国金融当局が英国の離脱が決まった場合の対応について定期的に報告を行うよう、米金融機関に要請したとロイターが伝えた。また24日には訪英中のオバマ大統領が、英国が離脱すれば「米国の貿易交渉相手の列の最後尾に回る」「貿易協定を結び直すのに10年はかかる」と離脱派をけん制した。

もしブレグジットが実現したらどうなるのか。米シティグループは「ポンドは最大20%下落、GDP(国内総生産)は4%減少」すると分析、英有力大学は「国民の年間所得は850ポンド(約14万円)以上減る可能性がある」との報告書をまとめた。

貿易面のマイナスが大きい。輸出入の約半分を占めるEUとの取引で原則として関税がかかるようになるからだ。とくに影響が出るのは主要輸出産業の自動車で、昨年の生産158万台のうち約4割がEU向け。かりにEUが日本車並みの10%程度の関税をかければ価格競争力は大きく後退する。

人材が財産である金融部門も大きな影響を受けそうだ。EU離脱となればビザが復活し、優秀な人材の確保に支障が出る恐れがある。米最大手金融機関JPモルガン・チェースは、ロンドンを縮小し、大陸の拠点を拡張する可能性を示唆している。

日本の自動車業界も警戒

国際政治におけるデメリットは図り知れない。中国が主導するアジアインフラ投資銀行に英国が積極参加して以降、すきま風が吹く米英の同盟関係の亀裂が深まり、国際情勢がさらに不安定化する恐れがある。残留支持のスコットランドが再び住民投票を行ってEU加盟を目指し、英国の分裂につながる可能性もある。

他方、英国にとってブレグジットのメリットは、政策や経済の舵取りでEUの制約がはずれて自由度が増すことだ。ギリシャ危機の際のように、ユーロ圏安定のために英国が資金を拠出する必要もなくなる。金融機関はユーロ圏の銀行同盟の厳格な規制から解放され、効率性と競争力強化を追求する独自路線を歩めるようになる。

日本への影響は総じてそれほど大きくなさそうだ。日本の貿易に占める英国の割合は輸出が2%未満、輸入は1%にも満たない。ただ、自動車産業へのインパクトは無視できない。エンジンなども含めると英国への輸出の3割近くを占めるうえ、日産、トヨタ、ホンダは現地生産も行っている。

とくに日産は全生産台数500万台強のうち1割前後を占める英国が、EUへの輸出拠点となっている。同社はこの3月に約35億円を投じて主力のSUVの生産台数を増やすことを決めたばかり。今後の動向次第では計画見直しを迫られる可能性もないとは言い切れない。

日本の自動車産業への影響が心配

ブレグジットは経済面だけでみれば英国にとって決して得にならない。ただ、同国では、EUの官僚主義的な姿勢を厭う感情がもともと根強いうえ、移民や難民に対する反発がここへきて強まっている。不測の事態が起きるようなことがあれば、ナショナリズムが一気に高まり、ブレグジットに雪崩れ込むリスクは残る。

国民投票まであと2ヶ月足らず。不確実性が増せば短期的に英国や欧州の金融市場が荒れ、円に上昇圧力がかかる可能性もある。ブレグジットの動向は今後も注視する必要がありそうだ。(シニアアナリスト 上杉光)

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