独自動車メーカー大手・フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題が、昨年、世界的に大きな注目を集めた。わずか1年のちに、今度は、日本を代表する大手自動車メーカーの不正が明るみに出た。三菱自動車の燃費不正問題だ。

一方で、トヨタと世界一の生産台数を争ってきたフォルクスワーゲンと、日本では屈指の巨大企業グループである三菱の自動車メーカー。伝統も格式もある大手自動車メーカーによる立て続けの不正ということで、「いったい、どうなっているんだ」と嘆きたくなる人もいるかもしれない。

ただ、日本企業、とりわけ自動車産業に関わる企業のスキャンダルの社会問題化はほかにもある。例えば、トヨタ自動車の米国での「意図しない急加速」問題を巡る集団訴訟や、タカタのエアバック問題などだ。特に最近の大手日系企業による不正は、まさに目を覆いたくなるほどだ。

結局、トヨタは訴訟で和解に至ったものの、タカタはより深刻な課題に直面している。リコール台数は約1890万台にまで拡大し、リコール費用も、高く見積もった場合には、約4000億円に上るのではないかとみられている。同社の純資産をも超えるリコール費用をどう負担するのか、ともすればタカタの存続の危機となる可能性すらある。

「大きければ大丈夫」がもはや通用しない日本企業の不正リスク

ただ過去の日系企業の不正を振り返ると、その根は深い。約10年にも及ぶ長期にわたって損失を隠し続けたオリンパス事件も、粉飾会計がまかり通っていた。しかも、自ら招へいした英国人経営者・ウッドフォード氏の勇気ある告発によって、ようやく露見した格好だ。

現在、すでに明らかになっているところでは、当時のオリンパスの経営陣には、オリンパス事件そのものを隠ぺいしようとしたり、ウッドフォード氏を社長から解任しようとしたりする動きさえあったという。

ただウッドフォード氏の解任だけで事態が落ち着かなかったのはむしろ、幸運だったかもしれない。同氏はオリンパス社長を解任された後、メディアや外国政府に対して情報提供するなど、捜査を後押し。訴訟問題に発展したことで不正が明らかにされ、真相が明るみに出た。稀有な告発だということもできそうだ。

一方、三菱自動車の燃費不正についても似た関係がありそうだ。同社の不正についても、三菱自動車が受注していた軽自動車のOEM生産の発注元であった日産自動車からの指摘がきっかけで発覚。奇しくも外からの目が不正を明るみに出した点は同じだ。

トヨタ自動車、タカタ、オリンパスなどの社会問題化した事故や不正を振り返ると、もはや「大企業はしっかりしていて、不正とは無縁」とは主張できそうにもない。

繰り返された三菱自の不正

しかも三菱自動車の事情はより深刻だ。大きく話題になったものだけでも今回のスキャンダルで三度目だからだ。

かつて同社は、2000年に発覚する大規模なリコール隠しを行っていた上に、2004年にもトラック・バス部門によるさらなるリコール隠しで批判の的になった。当時のことを覚えている人もまだまだ多いかもしれない。

三菱自動車の経営も大きくぐらつき販売台数が激減、当時筆頭株主だったダイムラー・クライスラーから資本提携を打ち切られるなど苦境に陥った。国土交通省の指導の下、社内改革に努めることになった。

他方で、その帰結はというと、三度目の不正問題を起こした三菱自動車が実施してきた「社内改革」は何だったのかという事態に陥った形だ。現時点では第三者委員会などを立ち上げて真相究明を進めている段階だが、今後の成り行き次第では、より大きな危機に発展する可能性も否定できない。

メーカー不正の温床はどこに?

今回の三菱自動車の不正は、燃費に関連する「検査データの改ざん」である。国の指定基準を通すために、意図的に検査データを修正して合格とし、車を販売した。

燃費性能の検査データはカタログ値に反映されるもので、実際の燃費とは必ずしも一致しない。つまり利用者から見ると、気づきにくい。一般道を走る車は、カタログ通りの性能が出ないことは周知の事実だからだ。

今回の不正問題には大手企業ならではの隠ぺい体質が垣間見えるわけだが、さらに言えば、根底にある大きな原因の一つとして、一部の技術者、関係者にみられるモラルの低下は関係していないだろうか。工学などの研究分野では、実験の一環としてデータをねつ造して、報告書や研究論文を書くといった行為に手を染める者もいるといわれている。

もちろんすべての技術者、関係者が該当するわけではないし、この分野で活躍する人々のほとんどは、数値をごまかさないというシンプルなルールを当然ながら守っている。だが一方では、そうした間違いは現実に起きており、社会問題化していることも事実なのである。今回の三菱自動車の燃費不正も、そうした一部の技術者のモラルの低下と本当に関係なかったのだろうか。

あるべきデータや数値の扱い方を踏まえれば、燃費性能の数値を書き換えることなく、燃費性能の本質的な改善に取り組む方向に進んだかもしれない。

こうした状態が企業における不正問題、経営危機につながるのだとしたら、放置することはできない。不正を許さない技術分野での規律の徹底とそれに見合う環境の整備が求められているのではないだろうか。これを機会に、消費者の目が行き届くような、実態に即した検査基準にするなど抜本的な改善が望まれる。(ZUU online 編集部)


【お詫びと訂正】本稿は5月6日時点で三菱自動車の今回の問題について「排ガス不正」といった表現で用いて公開しました。同社が国交省に対し、走行抵抗値のうち小さいほうの数字を意図的に提出して燃費や排ガスを計測していたとされることから、こうした見出しを用いましたが、読者の皆様からご指摘をいただき、誤った表現だったと考え、「燃費不正」と改めました。これにともない、大意を変えることなく、タイトルを含む一部の文章表現を変更、追加しております。読者、関係者の皆様には、適切な確認がなされないままの記事を公開したことをお詫びいたします。

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