「コンピューター付きブルドーザー」と呼ばれた故・田中角栄前首相は、豊富な知識と、高い実行力で、中学校卒業という学歴ながら、東大卒業のキャリア官僚を巧みに操縦して指導力を発揮した。学歴に左右されず、一国のリーダーまで登り詰めた功績は、間違いなく昭和のサクセスストーリーの1つに挙げられるに違いない。
近年は、格差社会が叫ばれるなか、政財界には2、3世の高学歴者が幅を効かせ、その存在感を見せつける。今太閤と称えられた田中角栄氏のような人物は出現しにくいご時世になったのだろうか。今回は、大卒の学歴と大富豪との関連性についてみていく。
やっぱり大卒が有利?
アメリカの経済誌「フォーブス」が発表した日本長者番付2016にランク入りした大富豪たちの学歴を見ると、東大、早慶、米国のエリート校の名前がずらりと並ぶ。
このランキングでトップとなったファーストリテイリングのユニクロを展開するファーストリテイリング <9983> の柳井正会長(資産額1兆8419億円)は早稲田大学の出身。2位に続いたソフトバンク <9984> の孫正義社長(同1兆6837億円)は、カルフォルニア大学バークレー校を卒業している。さらに5位に入った楽天 <4755> の三木谷浩史社長(同6,441億円)は、一橋大学からハーバード大学のMBAを取得している。
このランキングにおいて、上位10人のうち、学歴が判明した9人中8人が大卒の学歴となっている。トップの富豪に名前を連ねるには、大卒というのが共通項となっているのが事実だ。特に、日本企業も世界展開を進める中で、孫氏や三木谷氏のようにアメリカでの学生生活でグローバルなネットワークを形成し、その後のビジネスに活かしているのは言うまでもない。
しかし、大学のレベルが高ければ高いほど富豪になるチャンスが上がるかというと、そうでもないようだ。最高峰の東大出身者はトップ10入りせず、mixi <2121> の笠原健治会長(同1593億3000万円)が27位に入ったのが最高ランクだった。
大卒でない富豪も存在感
しかし、米国のIT業界を見渡せば、マイクロソフトの創設者のビル・ゲイツ氏とFacebookのマーク・ザッカ―バーグCEOはハーバード大学を中退した。両者は、一流校に入る頭脳を持ちながら、卒業をしないという選択肢を取った。しかし、2人とも学生時代に後のビジネスパートナーとなる人物と遭遇し、大卒という肩書ではなく、大富豪になるための道筋を得た。
故スティーブ・ジョブス・アップル創設者・も大学を中退している。ジョブス氏は、生前アメリカのスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチで、自らの生い立ちの話を交え、両親の蓄えを全てつぎ込んでまで大学に通う価値が見いだせず、退学を決意。大学を去ったことが人生で下した最も正しい判断だったと語った。
日本国内の話に戻すと、フォーブスのランキングに入った中に、大卒でない大富豪も含まれている。電気機器のキーエンス <6861> の創業者の滝崎武光氏は、資産額9379億円で、堂々の4位にランク入りした。滝崎氏は1974年にリード電機というキーエンスの前身ともなる会社を立上げ、一代で東証1部に上場するまでの企業に育て上げた。同社は工場を持たない「ファブレス経営」や値引きをしない「コンサルティング営業」といった特色がある。
また、17位に入ったファッションサイトZOZO TOWNを運営するスタートトゥデイ <3092> の前澤友作社長の資産2486億円。スタートトゥデイは、試着もできず、洗練された雰囲気ではなかったファッションのネット通販に革命をもたらした。ネット通販と言えば、安っぽいイメージに縛られていたが、セレクトショップの概念を持ち込み、ZOZO TOWNというブランド価値を高めることで、洗練されたネット通販の空間を造り上げ、消費者の心を掴んだ。
この2人に共通するのは、既存のビジネス慣習に囚われない、ユニークな視点を持っていることだろう。この他、ランキングには工業高校卒業で、大東建託 <1878> の多田勝美会長が資産額1808億円の23位にランク入りした。
ランキング上では大卒、学歴以外では柔軟なビジネス発想が重要
フォーブスの日本長者番付2016においては、トップ50の顔ぶれのうち、大多数の大富豪が大学卒業という学歴の持ち主。大学での勉強も去ることながら、人脈づくりなどをビジネスにつなげて成功を収めるケースが目立つ。
一方、大卒という学歴はなくとも、独自のビジネスセンスで存在感を放ち、ランキングに食い込んできた富豪たちもいる。彼らは、最高学府などで膨大なケーススタディを学び、分析、学友と熱く議論をしながらビジネスを組み立てていく戦法を選択しなかったが、その分、従来の慣習に囚われない柔軟な姿勢で新たなビジネスモデルを確立し、富豪になるチャンスを掴んだ。
平成の時代においても、学歴に頼らずに勝負できる土俵はまだ残されている。(ZUU online 編集部)