企業の内部留保が積み上がっているという。背景にあるのは、かつて進行した円安や原材料価格の下落など。そのおかげで企業収益も大幅な改善を見せていたところだ。

さらに今、企業が銀行口座に預けている「預金」が増加しているという。日銀が3月末に公表した2015年10-12月期の資金循環統計によると、企業の現金・預金は約246兆円となり、過去最高を更新した。この巨大な企業預金への指摘が再び登場しており、内部留保への課税議論にも復活の兆しも見える。

企業が積み上げる「預金」

ちなみに、主な日本企業の現・預金額の例を示せば、次の通りだ。ソフトバンク <9984> の現金とその同等物は約2.6兆円(3月31日時点)。さらに、トヨタ自動車 <7203> が約2.5兆円(2015年12月末時点)、本田技研工業 <7267> が約1.6兆円を現金とその同等物として保有(2015年12月末時点)している。

また東京電力(TEPCO) <9501> が現・預金だけで約1.4兆円(3月31日時点)で、三菱商事 <8058> も約1.5兆円の現金とその同等物を保有。言及した企業の現預金を合計すれば約10兆円になることが、直近の決算から読み取れる。

大きな企業の預金残高は、政界も注視している様子。麻生太郎副総理(財務・内閣府特命担当(金融)・デフレ脱却担当大臣兼務)は、「給料を増やす、株主に配当を増やす、設備投資を増やす。3つに利益は使われてしかるべき」と指摘し、その上で「何の目的もなく貯めておいて、さらに(法人税を)減税してくださいって、何のためにするのか」と疑問を投げかけた。

内部留保の増大に、「貯め込み」批判

他方で、企業の「貯め込み」への指摘は決して新しいものではない。「企業が利益を貯めこんでいる」「有効に活用していない」「賃金に回すことはできないのか」という声は、かねてから上がっていたのだ。


賃上げの圧力を受けてきた 経営側は「現預金は経営資金として必要で、賃金に回すのは難しい」と説明。背景にあると指摘されているのは、収益の改善傾向が円安、原油安によるもので、売上に反映されるようなビジネスの実態環境が上向いておらず、明るい将来の見通しをなかなか持てないという事情だ。

デフレからの脱却が危ぶまれる中、積極的な投資には及び腰になっている面もあるのかもしれない。

ただ、具体的な目的を持たない多額の資金があるのなら、設備投資や研究開発費として投じ、イノベーションの起こしたり、将来への潜在的な成長力を培ったりするなど、有効活用する道もある。企業のそうした余剰資金の活用を促す狙いで論じられるのが、内部留保への課税だ。

共産党の「内部留保課税」論の再来か?

この「企業の内部留保への課税」への指摘には、既視感がある。というのもすでに、政治的な話題として過去に言及されたことがあるからだ。

民主党の鳩山政権下でも、共産党がかつて「内部留保への課税」を主張。当時から企業が抱える資産に課税しようという動きがあった。

「内部留保」はそれほど単純なものではないが、現状では、企業の現預金も増回していることも窺える。例えば、会計上の「内部留保」には、設備投資にともなう減価償却の残り分なども含まれ、必ずしも現金や預金として抱えているわけではないとも指摘されてきたものの、現状では実際に、企業の預金がつみ上がっているのも事実だ。

見方によっては、かつて繰り広げられた、「内部留保への課税」が再び、こうした背景を踏まえて、俎上にのぼったとも言えそうだ。

安倍政権の「賃上げ」も、実現は限定的

安倍政権は最近、数年間にわたって経済界に対して「賃上げ」の要請を繰り返しており、内部留保の拡大をテコに「賃上げ」を後押ししようとする動きもある。

また賃金が上昇すれば、個人消費を後押しする可能性も出てくるとみられ、より有効に働く可能性もある。

他方で、「金は生かされてこそ金」だ。日常生活の向上、ひいては経済再生を後押しするためにも、内部留保の使い道を今こそ、改めて論じる時なのかもしれない。(ZUU online 編集部)

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