全国の地方自治体が地域づくりのプロを本気で募集するようになってきた。中小企業支援、自治体内の人材育成など仕事はさまざまだが、中には年収1000万円以上の高額報酬で優秀な人材確保に動くところも出ている。
急激な人口減少や産業の停滞に苦しむ自治体は、地域づくりを進めて地方創生を実現することを迫られているが、地域づくりを担える人材がいるかどうかで成功の鍵を握る。人材が育つのを待つ余裕がないとしたら、外から人材を集めるしかない。高額報酬で人材確保する裏側には、切羽詰まった自治体の苦しい事情が見え隠れする。
年収1200万円で「中小企業支援のDr.コトー」を確保
長崎県の五島列島にある新上五島町は、町産業サポートセンターのセンター長を公募した。中小企業支援センターのトップとして経営相談に応じ、島の活性化を図るのが仕事で、契約は1年ごとに更新され、最長で3年間継続できる。年収は1200万円。月額にすれば100万円で、78万円の町長より高い。
全国から146人の応募があり、2月に1次審査を通過した5人を面接した結果、福岡県在住で地元紙や総合食品会社に勤務歴を持ち、地域おこし雑誌の編集経験がある平義彦さん(46)を選んだ。町役場は平さんを「中小企業支援のDr.コトー」と呼ぶ。
町産業サポートセンターは通称「Sima-Biz(シマビズ)」。町内にある中小企業の強みを引き出し、売り上げアップを図る産業支援組織として設立された。公設民営の中小企業支援センター先進例で、「行列のできる中小企業相談所」といわれる静岡県富士市産業支援センターのサポートを受け、地域活性化に取り組む。
新上五島町は中通島、若松島を中心に有人5島と無人約60島を管轄する。豊かな自然と歴史ある教会で知られているが、人口は年々減少し、2月現在で1万9400人。1970年の4万6800人に比べ、半数以下になった。最近は年間500人のペースで人口が減る。高齢化率も4割近い。
かつては遠洋漁業で栄えたが、漁獲高が減少して衰退した。公共事業の削減で建設会社は次々に倒産。1981年に開港した上五島空港は利用者減から2006年で閉鎖された。もはや存続の瀬戸際に立たされているといって良い状況だ。
新上五島町総合政策課は「人口減少に歯止めをかけるには、地元の事業者に利益を出してもらい、雇用を生むしかない。離島という悪条件もあるので、何としても優秀な人材を確保したかった」と狙いを語る。
他の自治体でも高額報酬の職員募集が続々と
宮崎県日向市は9月に開設する予定の中小企業支援施設「ひむか-Biz」のセンター長を募り、選考中だ。応募者は116人。全国から大手メーカーの出身者や起業経験を持つ人材が応募してきている。1次選考の通過者を5月末に面接し、7月に正式採用する。
採用者の年収は1020万円。契約は1年ごとの更新だが、市役所内では副市長より高く、市長に次ぐ報酬になる。それなりの人材でないと、中小企業の育成や起業支援は難しいと判断したからだ。市の財政事情は楽ではないが、支出可能な最大限の報酬を準備したという。
市内には3500以上の事業所があるものの、人口減少や高齢化で中小企業を取り巻く環境は厳しさを増している。中小企業に経営上のアドバイスをし、起業したい人を支援するのが、新センター長の役割だ。
日向市商工港湾課は「優秀な人材が応募してくれているが、採用したセンター長には地道に地元企業を育成し、地域の苦境を打開してほしい」と期待を込めた。
岐阜県美濃加茂市は、まちづくりコーディネーター1人を採用、5月10日から活動に入った。任用期間は最長5年。月額給与は実務経験や実績に応じて1号給(37万円)とした。これとは別に地域手当や通勤手当、期末手当もつける。
総務省がまとめた2015年4月現在の地方公務員平均給与月額は、諸手当込みで約37万円。新上五島町や日向市には劣るものの、地方公務員の平均支給額を上回る報酬となり、市の本気度がはっきりとうかがえる。
市内には住民が地域の課題解決に立ち向かうまちづくり協議会が5つある。まちづくりコーディネーターは各地のまちづくり協議会や地域活動を支援し、地域が抱える課題解決に腕を振るうとともに、新しく協議会を設置する地域を支援する。
美濃加茂市人事課は「地域の課題を解決できる優秀な人材を確保するためには、それなりの報酬を出すしかない。採用した職員には地域活性化に向け、精一杯取り組んでもらう」と期待している。
背景に見え隠れする自治体の危機感
地域づくりの基本は人づくりだといわれる。歴史遺産を地域活性化に活用した長野県小布施町や、サテライトオフィス、芸術家の誘致で地域を活性化させた徳島県神山町など成功事例には、仕掛け人となったキーパーソンの活躍が欠かせなかった。
だがそうしたキーパーソンはどこにでもいるわけではない。急激な人口減少や高齢化にあえぐ自治体では、悠長に人材育成している時間もない。このままでは自治体自体が消滅しかねないという危機感から、急いで即戦力となる人材を求めているわけだ。
優秀な人材が地域づくりを手がけたとしても、成功させるためには自治体間の激しい競争を勝ち抜かなければならない。優秀な人材を手に入れただけでは、地域づくり競争のスタート点に立っただけに過ぎない。人口減少を食い止め、地域経済に活力を与えるためには、これからが正念場といえそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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