Uber,中国,配車アプリ
(画像=Webサイトより)

Appleのティム・クックCEOが北京を訪問し、10億ドルに上る出資を表明した配車アプリ「滴滴出行」の社長と北京のアップルストアで面会した。世界のAppleが興味を示したこの「滴滴出行」とは、一体どんな会社なのだろうか。

滴滴出行の会社沿革

2012年6月6日、北京で「北京小桔科技有限公司」という会社が設立された。ここから歴史が始まった。3カ月の準備期間を経て同年9月9日、北京地区で配車アプリのアップロードを開始。同年10月28日には、iOS向けのバージョンを提供開始した。同年12月にベンチャーキャピタルから300万ドルの融資を受けている。

その後の推移は次の通りだ。

◎2013年

  • 4月 微信の騰訊(テンセント)集団が1500万ドルを投資。
  • 10月 配車アプリのシェア59.4%に。
  • 12月 AppStore 中国優秀アプリに入選。

◎2014年

  • 1月 微信と戦略的合作。
    1億ドルの融資を受ける。中信産業基金6000万ドル、騰訊3000万ドル、その他1000万ドル。
  • 3月 利用客数1億人突破。登録ドライバー100万人突破、1日平均利用数521万8300件。
  • 8月 滴滴専車を開始、ビジネス用途に進出。
  • 12月 7億ドルの融資を受ける。国際投資集団など。

◎2015年

  • 7月 30億ドルの融資を受ける。中国平安(大手保険会社)騰訊など国内勢。
  • 9月 「滴滴打車」から「滴滴出行」に名称変更。新ロゴ使用開始。
  • 10月 上海市交通委員会がネット配車アプリの経営資格許可。

◎2016年

  • 1月 声明で2015年1年間の利用量が14億3000件に上った、と発表。これはUberの6年間の累計10億件を1年で上回ったことになる。
  • 3月 上海市交通執法総隊は、上海市出祖汽車管理条例、上海市査処車両非法客運辯法にもとづき滴滴出行を調査すると表明。

注目点として以下の2点を挙げておきたい。

(1) Appleは遅れて来た投資家であり、その金額もけっして多いとは言えないこと。

(2)2015年10月の上海市の許可により、法的な問題はカタが着いたように見えたが、その上海市の別の部署がまた査察に入ったこと。

滴滴出行の利用法

アプリを開くと(1)快車(2)出租車(3)専車(4)代駕(5)順風車(6)試駕という6項目がある。

(1)は最も一般的な使い方。(2)はタクシーを配車。(3)はビジネス用途に高級車を配車。(4)は代行運転。(5)はドライバーがルート登録し、通勤ルート上などで稼ぐことを可能にしている。(6)は車種登録している168万台から好きな車種を選べる機能。

ここでは(1)について説明しよう。

出発地と目的地を入力する。現在地はスマホ位置情報で把握されているが、これを使うと、たとえば離れて暮らす両親の元へも配車できる。入力が終わると出発地付近の対応可能な車が地図上に表示され、同時に料金も出る。複数台表示されれば、どれか1台を選ぶ。

すると選ばれたドライバーから電話が入り、出発地点の確認を行う。画面上には、車の位置、車のナンバー、出発地までのキロ数、推定待ち時間が表示される。

利用料金は安い。筆者が休日頻繁に利用する自宅からショッピングセンターまでは、タクシーだと初乗り範囲の9元である。ところが滴滴出行のオファーは4.7元とほぼ半額だ。さらに相乗りなら3.1元と表示される。

もっと長距離、例えばタクシー20元以上の距離になると、タクシーの80%くらいの感覚である。スマホ同士で決済され現金は介在しない。

ドライバーの収入と転回する人生

ドライバーと滴滴出行の分け前はどうなっているのだろうか。

これはなかなか難しい。滴滴出行は高峰(ピーク時)を設定している。7:00~8:59、12:00~13:30、17:00~18:59、21:00~22:30までの1日4回である。

ある一定のクラスになったドライバーが、前日に25回以上仕事をこなすと、翌日にはドライバーの取り分は、朝ピーク1.6倍、昼ピーク1.15倍、晩ピーク1.6倍、夜ピーク1.4倍になる。前日16~24回、8~16回、3~7回とランク分けされ、前日の働きによってアップ率が違う。

ピーク時を中心に毎日25回以上こなしていれば高い還元率を維持できるわけだ。

さらにその他のインセンティブもある。つまり一概には言えない。直接話を聞いたドライバーは、平日退社後の夜間と土日のみのアルバイトである。条件によって毎日大きく変動するが、彼の印象では自分の取り分は80~95%だという。

車とスマホと銀行口座さえあれば誰でも開業できる。最初は、土日や平日の空き時間を利用したアルバイトから入るだろうが、やがて決断を迫られる。

会社をやめて専業とするかどうか--。

こうして滴滴出行は、とくに若者の人生設計に変更を加えるまでになった。実際配車を頼むと、運転手は34歳以下の若い男性、車は10万元代の安い中国車というパターンが多い。聞いて見ると1カ月フルタイムで6000~7000元稼ぐという。

1日12時間働いて月1万元という若者もいた。20歳代なら勤め人よりも相当に良い。これを営むために借金して車を買った可能性も考えられる。

片やタクシー業界は見る影もない、つい2年前まで乗車拒否やら相乗り強要やら傍若無人に振る舞っていたのがウソのようだ。

目抜き通りでも空車が目立ち、捕まえる苦労は無くなった。上海市で見られるようにタクシー業界とはもうひと悶着ありそうだが、こうしている間にも滴滴出行の存在感は日々増していく。滴滴出行は中国を変えた。そしてさらに多くの人生に関わっていく勢いだ。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)