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(写真=PIXTA)

金融機関が日銀に持つ当座預金の一部にマイナスの金利を付けて手数料を取るという「マイナス金利政策」。2月16日の導入から2カ月が経過しました。その影響で住宅ローンの指標とされる長期金利(10年物国債の平均利回り)は大きく下げ、これに追随する形で貸出金利や住宅ローン金利も低下傾向にあります。金融機関の融資姿勢も積極的で、不動産投資はまさに絶好の機会を迎えています。

しかし金利が低下し、融資が受けやすい今の状況は、かつて経験した不動産の価値がその実体から大幅にかけ離れて高騰する、「不動産バブル」が到来したような印象を与えています。

事実、すでにマイナス金利政策を導入している欧州の、特に北欧3カ国(スイス、デンマーク、スウェーデン)では、低金利の影響で住宅バブルが起こり住宅市場の過熱が指摘されています。

そこで今回は、土地の価格、新設住宅着工戸数、マンションやオフィスの取引状況を分析しながら、2016年の日本の不動産市況を解析したいと思います。

地価は全国的に上昇中

まず、土地の価格はどうなっているのでしょうか?

国土交通省が2016年3月に発表した1月1日時点の公示地価によると、住宅地や商業地を合わせた全用途の全国平均は前年比+0.1%で、バブル崩壊以降ほぼ一貫して続いた不動産価格の下落が、2008年以来8年振りにようやく止まったことがわかりました。

この数年間、下げ止まりが鮮明になっていた商業地が上昇に転じたことが主な理由です。特に地方中枢都市は+5.7%と高い上昇を示しており、三大都市圏(東京・大阪・名古屋圏)でも2.9%の上昇が認められました。

一方で、住宅地の全国平均は8年連続の下落となりました。しかし、その下落幅は-0.2%と前年(-0.4%)に比べて縮小しています。三大都市圏ではほぼ前年並みの小幅な上昇、地方中枢都市では三大都市を上回る上昇を示しています。

新設住宅着工戸数は緩やかに回復傾向

新築住宅や分譲用マンションの着工戸数をまとめた「新設住宅着工戸数」の推移も、不動産市況を占ううえで重要な指標です。

国土交通省が4月28日に発表した2015年度の新設住宅着工戸数は、前年比4.6%増の92万537戸です。消費増税前の駆け込み着工の影響や、消費増税後の落ち込みからの回復が進み、2年振りのプラスとなりました。

主な内訳は、注文住宅など「持ち家」が2.2%増の28万4,441戸、アパートなど「貸家」が7.1%増の38万3,678戸、マンションと戸建ての「分譲住宅」が4.5%増の24万6,586戸で、伸び率が2桁に届かなかった月が大部分であることから、回復ペースは緩やかなことが読み取れます。

住宅ローンなどの貸出金利が下がり続けて需要が増えれば、価格設定にもよりますが新設住宅着工戸数は今後も小幅ながら上昇を続けると思われます。

マンションの取引状況と消費者心理を揺さぶる価格

その一方で、マンションの取引状況はどうなっているでしょうか。マイナス金利政策導入による住宅ローン金利の低下で住宅購入者は増えると期待されていましたが、まだ大きな効果は表れていないようです。

消費者の購入マインドが損なわれない範囲で価格が設定されれば、金利が下がり融資も受けやすくなっていますから、販売戸数も契約率も上昇すると思われます。今後、売れ行きが好転する契機となりそうなのは、2017年4月に8%から10%に引き上げが予定されている消費増税で、それに伴う駆け込み需要が考えられます。

オフィスの空室率、全国的に良好

最後はオフィスの空室率です。東京ビジネス地区内での平均賃料は、小幅に上昇しています。新築ビルで大型解約の動きは少なく、既存ビルで拡張移転などによる成約が見られたことから、全体的に好調な様子がうかがえました。

首都圏以外でも、大阪、名古屋、札幌、仙台、横浜、福岡では、平均空室率が下降しています。マイナス金利政策による融資金利の低下などで企業の設備投資が活発になれば、オフィスの移転なども考えられ空室率は今後も順調に下がっていくのではないでしょうか。

キャピタルゲイン狙いの不動産投資の動向に注目

今回は様々な角度から2016年の不動産市況を分析してみました。その結果、不動産バブルが到来していると確実にいえる状況には、まだ達していないことがおわかりいただけたと思います。

マイナス金利によって銀行預金は行き場を失い、住宅ローンや企業の設備投資、REITなどに流れていくという見方は変わりませんが、マイナス金利が不動産市況に与える影響は、今のところ限定的と考えて良いのではないでしょうか。不動産バブルの到来を見極めるためには、今回の指標のほかに、東証REIT指数や円相場、キャピタルゲイン(資産の値上がりによる差益)狙いの不動産投資が増え始めているかなどにも注意を向けましょう。(提供: 不動産投資ジャーナル

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