アイドル,AKB48,総選挙
(画像=Webサイトより)

「中国にアイドル文化はあるか」と問われれば「形成途上にある」と言っておくしかない。

人気者の変遷は激しいし、中国のジェネレーションギャップは、日本とは比較にならないほど大きい。年代によって現象のとらえ方はまったく違う。ここでは、その分析に当りSNH48というグループをツールとして取り上げることから始めてみよう(本稿、敬称略)。

SNH48登場の経緯

SNH48は2012年7月に全国公募を開始し、同年10月14日第一期生26人で結成された。これは2012年4月、AKB48が上海でファンミーティングを行い、中国市場への全面進出を宣言して半年後のことである。

2013年1月12日、初コンサート「Give Me Power!」を行った。4月22日、初シングル『激流之戦』を発表、6月13日、ファーストアルバム『無尽旋転』発表と続く。8月18日には、第二期生34人が加入。

第一回総選挙は翌14年7月26日に行われている。現在の正式メンバーは103人、Team SIIなど5チームで構成されている。

上海絲芭文化伝媒有限公司のプロデュースした「中国本土化大型女子偶像団体」とあり、職業欄には、偶像、歌手、演員と記載されている。

また総制作人は秋元康、顧問は山本学である。今年の4月20日には姉妹グループ「BEJ48」「GNZ48」が結成された。AKB48のノウハウ移植は順調に進み、今後の発展に陰り無しといったところだろうか。

中国における日本エンタメ文化の系譜

その前段階における日本のエンタメ文化受容の経緯を見てみよう。中年以上の中国人に圧倒的な影響を与えた高倉健がその嚆矢(こうし)であった。

1978年に中国で公開された映画『追捕』(日本名:君よ憤怒の河を渡れ)は、長年外国文化から隔離されていた当時の中国人に熱狂的に支持された。この映画のテーマソングは、一定の年代の中国人なら男女を問わず、本当に誰でも口ずさむことができる。相手役の中野良子も、日本人女性イメージの代表となり、後には日中文化交流の象徴ともなった。続いて『赤い疑惑』の山口百恵、『おしん』の田中裕子などが大人気を博した。

21世紀になると、経済発展に伴う価値観の多様化に伴い、もう彼らほど注目を一身に集めるような日本人スターは出ていない。

また2005年以降は明らかに韓流に押されていた。そうしてすそ野の拡がったサブカルチャーに、意外なところからアピールしたのは、AV女優の蒼井そら。2010年にブレイクし、2014年7月には中国人のツイッターフォロワーが1500万人を突破、ネット辞書によるとこの数字は日本芸人の第1位となっている。そのネット辞書の閲覧数も6011万回と膨大だ。この分析は本稿の目的外なので省略する。

アイドル界は韓流が席巻

10代後半から20代前半の若者に「人気のある芸能人は誰?」と聞いてみると、男性では

韓流グループBig Bangとリーダーの権志龍(2007年デビューの5人組)
TFboys(2013年8月デビューの3人組)
薛之謙(2006年6月デビューの歌手)
鹿 ●(2012年、韓国留学中にスカウトされ韓流グループEXOの一員としてデビュー、2014年11月独立)
呉亦凡(2007年、韓国芸能プロの練習生、2012年同じくEXOの一員としてデビュー、2014年11月独立)
宋仲基(2008年デビューの韓国人俳優)

女性では

韓流グループの少女時代(2007年デビューの9人組)
張セイ穎(2006年デビューの歌手、セイは●に見)
李宇春(2005年デビューの歌手、俳優)

などだった。韓流の影響はやはり大きい。

直近では女性グループが不足気味で、SNH48はうまくそこを突いたとも言える。

ただし「私の回りではみんな嫌いだよ」と言う女性もいた。

今後の日中エンタメ文化見通し

中国人には、ドラマも含め単純な感情表現の韓流のほうが分かりやすい。同じ感性の上に韓流には中国モノにはない色彩感、躍動感があり、大きな人気を得た。日本のように心の陰影を表現しようとして、分かりにくく息苦しい作品はない。こうして日本流エンタメは傍流へ追いやられ、サブカル化が進んだ。

中国人のアイドルへの接し方は、寝ても覚めてもというような思い入れはない。知り合いの中国人にコンサート映像を見せてもらった。いつもの無秩序で我が道を行くだけの中国人からすれば、その振舞いはむしろ大人しい。

そしてアイドルといっても、歌、踊り、演技ともしっかりした人、グループが多い。「中国好声音」という新人歌手のオーディション番組を見ていると、みな豊かな表現力の持ち主ばかりだ。中国人は、優れた芸をじっくり楽しむ、まともな観客である。

そうしたエンタメ文化に、日本流のオタク文化、アイドル文化が、改めて流入している。これまではコンテンツを見て影響を受けていたのが、スマホの急拡大に合わせ、交流型に変化した。AKB8総選挙への参加、蒼井そらのツイッターフォローなどは、スマホという新しいネットインフラに伴った現象だ。その延長線上に登場したのがSNH48というわけである。

SNH48への拒否感は、芸を重んじる風土から来ている。それに対し日系アイドル・オタク文化が再び興隆し、両者がせめぎ合っている。そして日中のオタクは、ますます国境を越えて連帯を深めるだろう。日中関係はリスク回避のため、あらゆる場面において多角的、重層的であることが望ましい。そうした観点からすれば、AKB、SNH文化の浸透は、望ましいことであり、少なくとも忌避すべきものではないのかもしれない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)